第16回 台湾交流録 part 2 予期せぬ展開
後日談の始まり―展覧会
翌年の2006年6月,辻内先生からメールが届いた。国立台湾師範大学から辻内先生に講演の招待状が届き,その中に石井が指名されていてホログラムを一緒に展示してほしいという内容だというのだ。前年暮れ,新竹で,師範大学の学長選に立候補を表明していたGou先生は学長に就任され, 早々にホログラフィーの講演会を企画されたようだ。そこで,辻内先生に講演依頼の招待状が届いたのだが,私がDr. Suに手渡したビデオなどのホログラム作品の資料を目にして,実物のホログラム作品もぜひ一緒に展示したいということになったらしいのである。たまたま手渡した作品の資料から,そのような展開が開けようとは夢にも思わなかったので驚いた。
大変ありがたい申し出だったが,すぐに「はい」と答えられなかった。もしかして,先方は,手荷物で運べる程度のホログラムを想像しているのかもしれない。講演発表のサンプルとしてならそれでも良いのだが,アートの展示としては十分ではない。初めてホログラフィーアートを見てもらう機会としては,できるだけ良い状態を準備したく,中途半端なイメージを与えることはできるだけ避けたいと常日頃考えていた。もし展示するなら,事前の準備も含め展覧会として計画してもらうことが理想だが,それは可能だろうかと言った疑問を辻内先生に打ち明けたところ,台湾サイドにその旨を率直に相談してみてはどうかということになった。
具体的なやり取りについては,学長の命により,師範大・光電研究所の助教授,Dr. Hsieh女史が窓口となった。展覧会の準備には,まず展示会場の場所の有無と広さ,出品可能な作品の量,それらの作品の輸送手段と費用の検討などを行って初めて,実現可能かどうか検討が可能となる。ところが,先方は展覧会の準備はもとより,作品の海外輸送についてもまったく初めての様子で,どこからスタートしたらよいか,それも,英文メールのやり取りだけでのコミュニケーションに,私は途方に暮れてしまった。そんな折,先方から「6月末にイギリスで会えますね。そこで直接話しましょう」と連絡が入った! この6月は,イギリスのノースウエールズで,第7回ISDH(International Symposium on Display Holography)が開催される。私は,このシンポジウムには第1回から皆勤で,それも口頭発表することになっていた(ISDHについては,後述予定である)。このシンポジウムに参加予定の彼女はプログラムで私の名前を発見し,連絡してきたのであった。直接会うことができれば,話は早い。出品可能な作品をまとめ,問題点が何かを正しく伝えられれば,半分解決したようなものだ。このラッキーなタイミングにホッと安堵したのであった。このシンポジウムには台湾から彼女の他,交通大学・光電研究所から,さらに崑山科技大学の視覚伝達設計系からも参加していた。1週間のシンポジウムのあいまに,具体的に問題点を話し合うことができたのは幸いであった。ちょうど,展覧会の準備などには慣れているデザイン系の崑山科技大学のDr Huang女史にも間に入ってもらったこともラッキーであった。ここでやっと展覧会実現に向けての第一歩を歩みだすことができた。その後,紆余曲折の経過をたどりながらも,結局,International Workshop on Holographyと並行して,かなり大掛かりの石井のホログラフィーの個展「Spinning thread of light-Holography Installation」を,この年の11月24日から29日まで師範大学のアートギャラリースペースで実現することになった(図3, 図4)。 <次ページへ続く>