第14回 太陽の贈り物シリーズ part 3 古代ローマ遺跡のインスタレーション
古代アッピア街道

建物遺跡を背景に,丘の中腹の直径80 mのインスタレーション作品が図8である。円の中心に数十個のオブジェを集中させ,そこからの魚眼レンズによる景観が図9である。このインスタレーションはアッピア街道を走る車の中からも,丘の緑の中に輝く鮮やかな光の色が良く見える。遺跡の建物を左手に眺めながら丘を上がっていくと,右手に広い原っぱが広がる。そこにはsinカーブを描いたインスタレーションを設置した(図10)。丘の上に立って改めて気づかされたのは,“なんと空の広いことか! ”。しばらく体験したことのない風景が目の前に広がっていたのだ。

会期中も,作品の側にいると,必ず誰かが話しかけてくる。遺跡空間と不思議な現代アートの組み合わせに興味を覚えるらしい。その多くが海外からの旅行者であった。さすが古代ローマ遺跡の博物館である。図14はロシアからのビジターとの記念撮影である。私が作者本人と分かると,サインまで求められた(笑)。 会期中,外国から博物館に私あての電話がかかった。初回は私が外にいて取り次ぎされなかったが,伝言で翌日指定の時間に電話の前で待ち受けていた。ドイツのプルハイムでホログラフィーミュージアム(O plus E 2019年7・8月号掲載)を立ち上げたマティアス・ラウクからだった。私は案内状をヨーロッパの知人たちに送付したが,それを見ての連絡であった。知人の少ないイタリアで,わざわざ電話をくれて旧交を温める会話はうれしかった。携帯電話がまだ普及してない頃である。「今南仏に住んでいる。ローマからそんなに遠くないから,展覧会が終わったら立ち寄らないか?」と誘ってくれた。残念ながら貧乏暇なしのニホンジンアーティストには難しかった。2年後,彼が亡くなったことを知った。南仏滞在は療養中だったと後で知った。私のドイツでの多くの活動を支えてくれた人物で,ローマでの何気ない会話は忘れがたい思い出になった。
