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第13回 太陽の贈り物シリーズ part 2 U・F・Oと巨石遺跡―黒い森からブルターニュへ

緑の公園の中に


 パブリックの公園にインスタレーションを設置することは簡単なことではない。しかし,美術館で展覧会が開催される場合は例外で,同時並行としての野外インスタレーションは実現しやすい。たとえそのエリアが美術館の外の公共の公園であったとしても,である。
 長野県安曇野市の池田町立美術館で個展「石井勢津子ホログラフィーの世界」(2000)が開催された時,美術館の前の公園にインスタレーションを設置した(図4)。公園から南向きの長い階段を上がっていくと美術館にたどり着く。オブジェは下の広い公園から階段わきの植え込みへと続き,観客を会場の美術館にいざなうように設置した。展覧会は夏季の2か月間であったが,野外作品は展覧会終了後も,1年ほど設置されていた。野外作品は風雨や気候の変化に耐えられることは必要条件であるが,ベストの状態を常に保ち続けるメンテナンスはなかなか容易なことではない。特に汚れは大敵であった。
 図5は「メビウスの卵・金沢展」(2006)が開催された,金沢21世紀美術館の前の公園のインスタレーションである。作品の周囲は緩やかな起伏がある環境なので,公園内を散歩する人たちには,オブジェの色がいつの間にか変化して見えているに違いない。ここでは展覧会終了とともに野外作品も即撤去された。

U・F・Oと巨石


 グレーティングのフィルムの厚さは25 μ ~50 μとかなり薄い。この薄いフィルムを袋状にして空気で膨らませた最初の作品が図6である。直径約6 mの大きな円を2枚重ねて周囲を閉じ空気で膨らませると,UFOのような円盤の形になる。この時,バルーンのように空気を目いっぱいに詰めるのではなく,少し空気が抜けたような状態で密閉すると,不思議な面白い効果が表れる。そっと静かに置いているだけなのに,常に表面がサワサワと揺れている。薄い皮膜は表面のほんのわずかな空気の流れにも影響されて動くのである。静かに近づくだけで,サワサワは実際の音になって聞こえ,まるでアメーバの生き物のような動きを見せる。図6のドキュメントは1998年ドイツのフライブルク近郊の“黒い森”でのパフォーマンスである。このパフォーマンスで一番苦労したことは,電気もない森の中での空気の注入であった。おもちゃのようなふいご数個を数人がかりで汗水たらしてひたすら踏み続けるものの,満杯になるまで優に1時間を越えてしまった。アートはやっぱり肉体労働である。
 同じ時期,フランスのブルターニュ地方のカルナック遺跡で「巨石との対話」と題してパフォーマンスを行った(図7)。紀元前3000~5000年の悠久の時間の中に存在し続ける巨石に,一瞬太陽の虹の衣をまとわせるというコンセプトだ。遺跡を案内してくれたのは,歴史的時間をテーマとした観念的作品を制作しているフランス人の現代作家で,自らのルーツをケルト人だと言い,ブルターニュ地方の巨石遺跡に造詣が深く,巨石とのかかわりのある作品も多く発表している。私が列石の1つをホロのフィルムで覆う作業を始めて間もなく,人が近づき声を掛けてきた。傍らで手伝ってくれていた案内役の作家が応答し,延々と会話が続いた。私にはまったく分からないフランス語であったが,その男はどうも制服らしき服装である。少々不安が頭をよぎりながら,じっと会話が終わるのを待った。20~30分も過ぎたころ,男は何事もなく去って行きホッとした。後で聞くと,地元の警察官だったらしい。遺跡の近隣の住民が,我々が何か遺跡に悪さをしているらしいと通報したらしい。案内役の彼は,これこれしかじかアート活動としての行為で,決して遺跡に危害など一切加えたりしないと,切々と説いてくれたようだ。彼はこれまでも巨石遺跡で活動をしているが,このように通報を受けたのは初めてだと言っていた。言葉のよく分からない外国人だけでこのような場面に出くわしたら,どんな結末になったか想像すると冷や汗が出た。同時に,貴重なパフォーマンスの記録が撮れたのであった(図7(a))。図7(b)はよく見ると,巨石に緑色のスプレーの落書きがされていることに気付く。残念ながら,世界中に見られる心ない行為に,実に腹立たしく悲しい事実も知った。 <次ページへ続く>

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