第12回 太陽の贈り物シリーズ part 1 ―野外インスタレーション―
アートコミュニケーション
2000年の春から夏にかけて銀座のギャラリー「なつか」が企画したユニークな展覧会に参加した。題して「アートコミュニケーション―かりんの里―いきいきわくわく」。会場は新潟県津南市にあるケアハウス「リバーサイドみさと」の建物の中と周囲の敷地であった。「アートコミュニケーション」とは,見て字のごとく,アートを通してコミュニケーションを図るということで,それが果たして可能であるかを探る,実験的な展覧会であった。ケアハウスは元気な高齢者のための居住施設である。その建物内の共同スペースにアート作品を置き,住人たちにアートとコミュニケーションをとってもらおうという趣向である。多くの作品は従来のアートの概念をはみ出した実験的ものが置かれた。具象とは程遠い意味不明の形のオブジェとか,手に取って体験する参加型の作品,「音具」と言われるインスタレーションや手を加えることで形を変える作品などが生活空間の一部に置かれた。既成のアートの概念からはみ出したこれらの作品と高齢者たちが向き合った時,どのような対話やリアクションが生まれるのか,われわれ作家たちは興味津々であった。
私は,室内にはグレーティングによる虹の演出を試み,屋外の庭先には太陽の贈り物シリーズのオブジェを数個設置した。共用の食堂の天井と壁には虹が現れる(図6(a))。食堂は吹き抜け空間で,窓は南に面している。窓枠の桟に15 cm幅のグレーティングホログラムを7~8 mほど一列に並べた。ここに日光が当たると光が分光して,天井や壁に虹が現れる。太陽の移動とともに虹も移動していく。1日に3度この空間に通ったとしても,何人が気付くかはわからない。ふと天井に目をやったとき,たまたま虹が目に飛び込んできたというくらいでよい。自然を取り込むアート演出はそれでよいと思っている。パチンコ屋の看板ではないのだから。
図6(b)は,会期も半ばを過ぎたころの野外作品の情景である。春先の設営時には短い草だけしか生えていなかった地面は,2か月もたつと,オブジェの周囲の草花は伸びて花を咲かせ,作品たちはすっかり周囲の環境になじんでいた。また,オブジェの内側は温室効果でもあるためなのか,周囲の草より大きく伸びて育っていることがおかしかった。設置作業をしていた時は,理解不明なものを地面に固定して,何をしようとしているのかといった目で眺められていたが,会期中,様子を見にケアハウスを再び訪れたとき,住人の1人から声を掛けられた。「毎日,裏の川むこうを散歩するのが日課だが,毎日眺めていると,天気のいい日はきれいな色が見えるね。今日はどんな様子に見えるかと,毎日,散歩中楽しみに眺めているよ」と言われた。これぞアーティスト冥利。アートとのコミュニケーションに知識はいらない,感じるだけでよい。そう思わせてくれる体験であった。
ホログラムインスタレーションだけでなく,高齢者たちは作品たちに毎日接するうち,実験的な作品までもごく自然に受け入れ,おもしろがったり楽しんでいたように見受けられた。既成の概念に縛られた知識に頼ると,実験的なアートを受け入れることはやさしいことではない。知識のよろいを脱ぎすて自然体でアートに接すれば,おのずとそこに対話が生まれることを見せてもらった気がした。
(a)グレーティングホログラムによる
(b)成長した草花の中のオブジェ
図6 2000「アートコミュニケーション―いきいきわくわく」
ケアハウス・リバーサイドみさと、津南、新潟