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第6回 ブラジル紀行

アマゾンとイグアスの滝


 1995年,3度目のブラジル行きが現実となった。前回の準備不足を解消し,もう一度良い条件で展示するように再度招いてくれたのだ。ブラジルは日本と地球の反対側,通信手段も移動の時間も費用も,ヨーロッパや北アメリカに旅するのとは大いに事情が異なる。そのような国へ3回も招待されるとは,こんなありがたくうれしい話はない。よもや4度目の美味しい話はありえないだろうし,自費で渡航するには高嶺の花すぎる。これがブラジルを訪れるラストチャンスかもしれないと考えた私は,展示以外ではこれまで試みたことのなかったブラジル観光を決行することにした。
 展示は前回同様にレインボウホログラムをフィルムだけ持って行くことにした。ただし,サイズは110 cm×170 cm。長い筒に入れて手荷物で機内に持ち込んだ。その他設営に必要な素材のすべては,現地で準備してもらうように手配した。水を取り入れたインスタレーションで,ホログラムの後ろの床に水を入れたプールを置き水滴を垂らす。その中にミラーを沈ませる。水中のミラーに反射した光で画像を再生すると,画面上に波紋が同時に映し出されるという具合だ。ホログラムをアクリルにサンドする作業や仮設のプールの制作,照明の準備のほか,周囲の外光を遮るため,オープンスペースの展示会場の中はこの作品のためだけの仮設の特別な天井付き小部屋が用意されていた。展覧会終了後は,現地のスタッフが作品のホログラムだけ,もとの筒の中に収納し梱包して日本に送り返す手はずである。
 展覧会がオープン後,私は早速前から計画していたイグアスの滝とアマゾン観光を実行に移した。サンパウロにはトータルするとそれまでひと月半の滞在になるが,ほとんどこの街から出たことはなく,初めての遠征である。アルゼンチンとブラジルの国境にあるイグアスの滝は世界三大瀑布と言われ,サンパウロから飛行機で2時間ほど。機体は正確に覚えていないがセスナのような小型機だった。朝の便であったが,滝に近づくと,機体は滝の上空を旋回し,平らな大地にできた大きな割れ目にすさまじい水量がのみ込まれていく様子が手に取るように見えた。
 現地で頼んだ日系移民三世だというガイドが空港で迎えてくれた。アルゼンチン側の滝の上からのぞく光景は太陽があたる午前中が良いというので,まず車でそこに向かう。途中,立ち枯れた高い木の枝に,ブラジルの国鳥,オレンジ色の大きな嘴のトウッカーノ(オオハシ)が数羽止まっているのを見かけた。絵本のような光景だった。目的地まで約小1時間で到着。国立公園に入り,歩いて森を抜けると,まっ平らな沼か湖のような風景が広がっていた。水上にかけられた遊歩道を歩いて先端にたどり着くと,突然大地の割れ目が目の前にあらわれ,大量の水が轟音とともに吸い込まれていく。滝は大地の縁からカーテンのように連なり面となって落下していた。私が立っている場所は悪魔の喉笛と呼ばれる滝の上。しばらく呆然と大自然のなす光景を眺めた後,滝つぼに近づくボートツアーに参加した。イグアス川をさかのぼるツアーだが,絶壁を背景にした狭い川岸にくつろぐカピバラファミリーを発見した。大きな野生動物はまるでぬいぐるみのようにカワイイ感じであった。その後,ブラジル側に移動し,滝の前のホテルに宿泊する。滝へのトレイルはホテルから始まる。到着した当日,そして翌朝も,滝つぼの近くまで散歩した。霧でびしょぬれになりながら,滝のカーテンの壮大なスケールを満喫した。後日,日本でイグアスの滝のTVの1時間番組を見たが,実際の迫力とあの感動はTVの映像からはどうしても伝わってこなかった。
 次は,熱帯雨林の大河アマゾンを訪ねることにした。まずマナウスに飛んだ。マナウスはアマゾンの中流部,サンパウロから北西に飛行機で4時間以上かかる地だ。19世紀にゴムで繁栄した都市で,街の中心に建つオペラハウスは,イタリアからすべての資材を運んで建てられたという総大理石の豪華な建築物でとても驚いた。今は,ゴムの生産地はアジアに移ってしまったが,往時の繁栄ぶりが偲ばれる。ここから船で広い川幅に静かな水面を小1時間移動すると,目的のアリアウタワーホテル(図4)に着いた。ここは唯一のジャングルホテルで,木造の高床式の建造物で,床は地上から20 mほどの高さだった。雨季には,川の水面が上がるため濡れるのを避けるためだという。他の建物に移動する渡り廊下は木々の間をぬって張り巡らされており,ちょっとしたターザンになったような気分だ。料理にはミネラルウォーターを使いふんだんにフレッシュ生野菜を使った料理も並ぶ高級ホテルでもある。
 ここでは,アマゾンならではの面白い体験ができる。突然,外の騒々しい音に驚き,部屋の窓を開けると,木々の間からバケツをひっくり返したような水の塊がドバーっと絶え間なく落ちてきた。雨である。まさに豪雨だ! しばらくするとやんだ。広大なジャングルにこんな雨が降るなら,川の水面が15 mも上がるのもうなずける。乾季に実を付けた木が雨季に水没し,魚がその木の実を食するという。そういえば,船から見た川の水の色が透明なセピア,コカコーラの色にそっくりだった。これは,水没した木の樹液で水が染まった結果だという。
 マナウスは透明なコーラ色の川と泥を含んだ黄土色の川の合流するところにあり,2色に分かれたまま流れる川の様子も船から見ることができた。ホテルに2泊したが,散歩しに渡り廊下に出ると,手すりにカラフルな大きなコンゴウインコが2羽とまっていた(図5)。近づいても飛び立とうとしない。周りを見渡すと,周囲の木の枝にも鳥たちがいた。そうか,彼らの生活圏にわれわれがお邪魔させてもらっているのだと知った。レストランでは,小さな野生のサル(子供ではない)が遊びに来ていた。





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