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第5回 ベネチアの個展

まな板とタイヤ


 展示作業が終わり次はワークショップだ。暗室になる小部屋を訪ねた。そこには頑丈なテーブルの上に車のタイヤが置かれ,その上には1 m×1.2 mくらいの分厚い大理石の板が設営され,He-Neレーザーにビームスプリッターやホルダーなどの光学機材がのっていた。ベネチア島に車が1台もないのでタイヤを見た時は不思議な気分になった。この大理石の板は調理用のまな板だという。さすがは良質の大理石を産出する国らしい。4×5インチの半分のサイズのガラス乾板に現像液など,必要な材料はすべて問題なく揃っていた。
 受講者たち7~8人は,プロの写真家やエンジニア,アーティストなどが参加していて,ホビーというより特別にホログラムに興味を持った人たちの集団といったようすだった。デニシュークタイプのワンステップホログラムを制作したが,彼らも例にもれず,初めて自分で作ったホログラムの再生像を見たときの喜びようといったら・・・。年齢も国も問わず皆同じようなリアクションをするのを眺めて,いつもわが身のことを思い出し,私も初心にかえる。
 残りの数日は急いで観光に専念する。運河には多くの美しい橋が架かり,どこへでも歩いて行ける距離である。観光ルートを外れ少し路地を入ると生活空間の裏道にでる。ここでは生粋のベネチアンが普通に暮らしている。路地には外猫がたくさんいてのんびりくつろいでいる。ベネチアは実に猫の多い街である。道を挟んで,両側の建物からは洗濯の物干しロープがかけられ,道歩く人の頭上に洗濯物がこいのぼりのように舞っている風景に出会う(図6)。

図6 ベネチアの路地裏風景


 私に用意された部屋は喧噪な繁華街を離れて,こじんまりとしたクラシックで贅沢な隠家風5つ星のホテルであった。緑の中庭を通りぬけて部屋に入ると,バスルームと洗面台はこれまた美しい総大理石の装飾で,さすがイタリア! めったにできない経験を楽しんだ。帰路,ローカルの空港まで送ってくれたのはモーターボートだった。帰りはロンドン経由で,アメリカ,シカゴへ向かった。

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