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第3回 セビリアからサンパウロヘ

スペインのフライパン


 展示の設営には,私はオープン1ヶ月前に現地に入った。万博会場は例にもれずとにかく広い。オープン直前ということで,会場内のいたるところが最終段階の工事の追い込みの真最中で,埃っぽく足場も悪い。おまけに,まだ4月上旬だというのに,毎日30℃を越えるカンカン照りで,とにかく目的のパビリオンにたどり着くのにも,毎日一苦労であった。日本館は安藤忠雄の設計で,外壁が木材で覆われたパビリオンであった。オープン前だというのに,木材の表面は強い日差しと乾燥で,すでに干からびて白茶けた状態になってしまっていた。木材の美しさを表現するのには,もっと湿潤の気候下でなくては無理である。これでは,木の良さがまったく伝わらず逆効果だ。素材の選び方のミスマッチではないかと,ひとり心の中で心配していたのだが,オープン直前になって,外壁表面全面にオイルが塗られた。そうして,白茶けた色からやっと木のぬくもりのある茶色に戻ったが,この状態が半年の期間保たれるかどうかは疑問であった。建築物は長い歴史の中でその地の気候風土にうまく適応して成り立つものだ。博覧会のパビリオンは短期の仮設的建造物がほとんどだが,だからと言って現地の気候風土を無視していいことにはならない。
 夏は暑く乾燥した地中海気候のセビリアは,「スペインのフライパン」と言われていることを後になって知った。「フライパン」の地で「木材」という素材選択に,はなはだ疑問をもっていた私であったが,万博が終わって数年後,偶然腑に落ちるできごとに出食わした。パリの美術館に出かけ,建築模型が展示されている会場を回っていた時に,「おや?」という形を発見した。よく見ると安藤忠雄作だった。セビリアの日本館と同じ形だった。建築模型によく見られるようなボードなどで造られた物ではなく,木目の美しい丸木の塊から彫り出されたオブジェは,それだけでインパクトがあった。そのまま建物として具現化されたなら,木の良さを日本のシンボルとして伝えられたであろう。しかし,「フライパン」のセビリアでは実に残念な結果となっていた。模型とは設計者が完成する建物のイメージを事前に伝えることだ。ところが,素材の特性と環境の関係を無視しては単なる机上の空論となって,時には失敗に終わる。この展覧会は世界の安藤の残念な例を追認する出会いであった。
 日本館のほかの展示室がごく当たり前の展示空間であったのに比べ,サイエンス・アートギャラリーの空間は,作品を展示する以前にすでに木組みの木材の展示場のような有様だった。内装のデザイナーが安藤氏の日本館のイメージを“忖度”した結果か? 余計な木々の柱はすでに取り外すすべもなく,使いづらい空間この上なしだった。私は何とか工夫してインスタレーションを仕上げた。設置完了後,私は残念ながら会期オープンまで滞在して待つことができなかった。

図2 笹(100 cm×180 cm)            図3 短冊(30 cm×90 cm)


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