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第1回 冬の旅

 オハイオ州立大学はダウンタウンから少し郊外に位置し,全米最大の規模といわれる大学の敷地は半端なく大きい。極寒の下,目的の建物を探したどり着くのも一苦労であった。
 私は,パルスレーザーのラボで,アーティスト・イン・レジデンスとして1週間(5日間)の撮影にのぞんだ。物理系研究室のハリス・ケーガン教授が,ラボの管理,技術のアシスト一切を担当している。このラボは,2009年にNYのホロセンターの設備の一部,パルス部門が移設されたものだ。ホロセンターは1998年にアナ・マリア・ニコルソンとダン・シュバイツアーによって開設された,現在は新しいディレクター,若いマルチーナ・ムロンゴヴィウスのもと,ホログラフィアートの情報の拠点として運営と活動が続けられている。パルスレーザーを使ってアーティストが作品制作できる機会はめったにない。2013年のホロセンターのアートグラントプログラムに応募し,首尾よくその年の1人だけのアーティストとして選ばれ,ここに制作にやってきた次第だ。ところで,ここでの撮影可能なサイズはおよそ30 cm×40 cm。長いマスターホログラムを制作するには,3つのパーツ(中心と左右からの視点)に分けて撮影しなければならない。マルチカラーに仕上げるには,上下方向に位置をずらした3スリットも必要なのである。少なくとも9枚のマスターホログラムが撮影できないと,私の意図するH2が完成できないのである。
 パルスレーザーによる撮影の利点は,ホログラムの撮影ではいつも悩みの種となる除震の問題をまったく気にしなくてよいことである。一方,レーザー発振器のご機嫌取りをするのがなかなか厄介である。寒波の影響もあったのか,ラボの室温の昼夜の温度変化も加わり発振器の状態が思わしくなく,もしや撮影が不可能かもしれないという不安をいだいてのスタートだった。
 通常の写真の場合,カメラを持ち歩き,何処へでも目的の被写体のある所に移動して撮影することが可能だが,ホログラムはそうはいかない。撮影設備(光学系)のスタジオに素材のすべてを持ち込み,被写体となるシーンを準備しなければならない。それはあたかも「劇場の舞台」装置作りに似ている。パルスレーザーの魅力は,動く被写体の瞬間のシーンを記録できるところにある。あるシーンを一億分の数十秒で切り取り,時間と空間を変えて,ホログラムは三次元像を再現する。その面白さを実現するには,被写体に動きが求められる。つまり,舞台装置にパフォーマンスの要素が加わる。
 今回の被写体は,空中にばらまかれた軽い素材が宙に浮かんでいるシーンとして,羽毛,紙吹雪,風船,そして,風になびくスカーフ,人体,布,ガラスと水,水を注ぐシーンなどを試みた(図2)。特に厄介なのは,感光材料をホルダーに設置した後,暗室の中で感材の前面に目的のシーンを実現すべくパフォーマンスすること,さらに,ベストシーンでレーザー発振とタイミングを合わせることであるが,いずれも至難の業であった。
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