セミナーレポート

注射の悩み,解決します:近赤外蛍光インプラントの開発とその可能性高知大学 佐藤 隆幸

本記事は、国際画像機器展2012にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

近赤外光と蛍光法で血管穿刺の失敗をなくす

 「注射が好き」という人は恐らくいないでしょう。ましてや,血管が細く何度も刺されることが多い人,あるいはそのような人に注射をしなくてはいけない,医療従事者にとって,血管穿刺(せんし)は本当に悩みの種です。
 注射針で皮膚を刺した瞬間,針先は見えなくなります。それは当たり前で,だから失敗することもある。誰もがそう思っていました。実際,静脈が見えない場合には,医療従事者が駆血帯で腕を縛り,血管を盛り上がらせてから,手で触って探し出して,注射針を刺します。小児科医は小児や新生児に日常的にこれをやっていますが,本当に難しく,ほとんど神業です。
 現在,国内での1日当たりの血管穿刺件数は約10万件で,採血や献血,注射,点滴,輸血,CT・MRI造影検査,血液透析,カテーテル検査などで利用されています。失敗すると,被穿刺者に疼痛(とうつう)や不適切な部位の穿刺による神経損傷,血管損傷による皮下出血などが引き起こされてしまいます。穿刺の失敗の繰り返しによる疼痛は被穿刺者の信頼を失いますし,被穿刺者が納得しなければ,極端な場合,傷害罪が成立します。実際,見舞金・賠償金で,最高9000万円になった例もあります。
 こうした中で,数年前,近赤外光と蛍光法による近赤外蛍光注射針で,その悩みが解決できるかもしれないと思いつきました。そのためには,血管と穿刺する注射針の両方を見えるようにすることが必要で,当時は完全な絵空事でしたが,その後の研究によって,実現に近づいてきました。
 血管穿刺の成功率向上に求められる技術は次の2つの両立です。1つが穿刺する血管を可視化する技術です。造影剤とX線診断装置で,血管造影をする方法は使えません。そもそも,造影剤を血管内に注入するためには,血管穿刺に成功していなければならないからです。また,最近では個人を識別するために静脈による生体認証が使われていますが,これで可視化できるのはせいぜい皮下2mm程度にある静脈だけです。穿刺の対象となる,浅いところでも皮下3~4mmの位置にある動脈や静脈の可視化はできません。もう1つが留置針や抗がん剤投与用のCVポート(皮下埋め込み型ポート),カテーテルなど血管内に挿入するインプラントを可視化する技術です。

<次ページへ続く>

高知大学 佐藤 隆幸

1985年 高知医科大学医学部 卒業
東京女子医科大学循環器内科、国立循環器病センター研究所を経て
2000年 高知大学医学部 循環制御学 教授
専門:医工学、循環器学

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