画像センシングの最前線

電車線インフラ設備における画像センシング技術庭川 誠

1 はじめに

 鉄道分野における電気設備は,長大かつ巨大なインフラ設備として構成されており,これらインフラ設備は,検査及び保守によってはじめて安全運行が保たれる。多くの電気設備は目視検査に頼るところが多く,画像センサを含む効率的なセンシングが求められる。
 従来の画像処理を使用した設備監視では, ITVカメラと呼ばれる横640×縦480pixelの画像が主流であったが,近年では2Kや4Kと呼ばれる横4,000×縦2,000pixel相当の高解像度のカメラと,加えて車両振動に強くかつ大容量データを格納できるSSD(Solid State Drive)と呼ばれる半導体メモリを使用して,高解像度のカメラ画像を録画できるようになった。これよって高速で走行する車両から目にも止まらぬ速度で通過する地上の設備を,人間の目の代わりに確実かつ詳細な設備の画像が記録可能になった。
 世界へ目を向けると環境負荷の軽い電車鉄道は世界中で見直されており、新興国を中心に続々と鉄道インフラへの投資計画が明らかにされており,世界の鉄道路線距離が拡大している(1)。画像センシングを使用した設備点検は,これまで以上に活躍するフィールドが広がっている。本稿では,画像センサを用いた実例として,電車線の設備点検で最も重要視されるトロリ線の摩耗測定技術と,海外で必須とされるパンタグラフの接触力測定技術と,今後の適用の拡大が期待されるわたり線の測定技術について紹介する。

2 検査測定技術

2-1 トロリ線の摩耗測定
 線路の上に架設されるトロリ線は,図1に示すように電車のパンタグラフとしゅう動しながら電力を供給している。トロリ線は電車の通過回数に伴って平均的に摩耗が進行するが,局所的かつ急激に摩耗が進行する場所があるので,定期的に摩耗の進行状況を測定する必要がある。従来は,車両からレーザ光をトロリ線の下面に照射して,その反射光を測定することでトロリ線の摩耗が測定されてきた。画像センサを用いても,同様にトロリ線の摩耗測定が可能である。特に画像処理を利用するメリットとして,ロバストなセグメンテーション技術が多数開発されており,これら技術を適用できる。例えば図2の画像は,トロリ線の下面をラインセンサカメラで撮影した画像で,トロリ線の下面が撮影できている画像である。トロリ線の下面は,黒化によって濃淡値がまだらに見えて画像処理が難しい場合があるが,新しいアルゴリズムを適用することで,外乱に影響されず,トロリ線の下面を測定が可能である。
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庭川 誠

株式会社明電舎 研究開発本部 基盤技術研究所 知能情報研究部長。
2008年電気科学技術奨励賞受賞, 2011年画像センシング技術研究会高木賞受賞,2013年澁澤賞受賞, 博士(工学)

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