SOINNは様々な分野で多様な利用が広がる

　先にも述べましたが，SOINNはプログラムするのではなく，人間の五感にあたる目，耳，タッチセンサー，重さなどの情報から複合的・経験的に学習させることが可能です。
　東工大の我々の研究室では，様々なセンサーを付けたSOINN搭載のヒューマノイドを構築し，子供が遊びを通じて学んでいくように，身の回りの様々なものを，見せたり，触らせたり，たたいて音を聞かせたり，そのものの名前を聞かせたりして学習させる実験を行いました。聞かせる言語は，方言や日本語以外の言語でも構いません。この実験では，ヒューマノイドに「木製かどうかを把握するためにはたたいて音を聞けば良い」といったことを，経験から（プログラムするのではなく）学習させることができました。
　あるロボットが覚えた知識は，クラウドを通じて他と共有させることも可能です。我々の研究の結果，あるロボットが覚えた知識を，それとはスペックが異なる他のロボットと自律的に共有させることも可能になりました。この技術はクラウドAIなどと呼ばれることがあります。SOINNベースのクラウドAIでは，多様な機器の知見を融合できることから，例えば国内工場の機器類の良好な稼働パターンを海外工場に転移したり，逆に海外工場で良好な稼働パターンを国内に転移する，といったことが容易に実現できると考えられます。
　SOINNのドローンへの応用も始まっています。東工大の研究室では，ドローンに扇風機の風を当てるなどの外乱を与え，外乱がある中での自律飛行を自己学習させる実験を行っています。ドローンは外乱を受けると態勢が崩れます。その際，操縦の上手な学生がドローンの態勢を立て直します。この立て直す過程の各種センサー情報や操作コマンドをSOINNに与えることで，SOINNに外乱のある環境下での安定した自律飛行を学習させます。この学習を5分～10分繰り返すと，SOINN搭載ドローンは，外乱のある環境で自律飛行できるようになります。現在これをさらに進め，シミュレーターの中で自己学習させることで，人の教示者を介さずとも自ら良好な飛び方を学ぶ「自主トレ」や，下に荷物を吊り下げた状態でも，外乱環境下で安定した自律飛行ができるようになってきています。現在NEDOのプロジェクトで，自律制御システム研究所様などとドローンによる宅配サービスの実現を目指した共同研究も進めています。
　これら以外にも，オープンデータで地図情報を取り込み，出店計画や売り上げ予測につなげる。公開気象データを活用し，ビルのエネルギーマネジメントでの消費エネルギー予測に応用する。雨雲レーダの情報によりダムの水量を予測する。全国に設置するセブン銀行2万2000台のATMの入出金を予測し，効率的に紙幣の補充をできるようにする。さらに医療・介護分野では，患者さん個人の「平常」を個別に学習させ，「異常事態」を各個人にあわせて検出し通報する。そのような様々な分野で，SOINNの活用が始まっています。

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