セミナーレポート

誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明

本記事は、画像センシング展2011にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

ものづくりとサービスの「共創」

 われわれは,研究室の中でモーションキャプチャーやボディースキャンを使って人間をセンシングして来ましたが,これらの機械は値段が高いし,扱うのは面倒で,キャリブレーションも厄介でした。今,ご紹介したように,そうした装置が徐々に店舗に入り始めています。店舗に機械を入れる時,最も大事なことはプライスを下げることではありません。運用コストを下げることです。例えば店舗に1,000万円の機械を入れる時には,最初に1,000万円を払うだけで済みます。しかし,機械を入れた後に,その機械に1人が張り付かなければいけないとすると,さらに年間1,000万円かかることになります。2年間だったら2,000万円ですね。これこそが最大の赤字の素です。
 ですから,「いかに簡単に測れるか」ということが重要になります。プリントクラブのようにお客さん自身が喜んで測ってくれれば,それがベストです。そうでなくても,せめて昨日入社したばかりの人がすぐに測れるぐらいになっていなければ,なかなか使い物になりません。もし,皆さんが作った機械を店舗に導入させようとお考えでしたら,イニシャルコストを下げることに熱中するより,運用コストを下げることに尽力した方が効果的です。
 店舗に機械が入ると,研究室で取れた数百程度のデータが,いきなり数万という桁にハネ上がります。これが,さらに生活空間に入っていきます。例えば,米Microsoft社の「キネクト*」のようなゲーム操作用のセンサーを使ってデータを取ろうとか,携帯電話などでデータを取るようになってくると,今度はさすがにコストが効いてきます。キネクトは操作性が良いだけではなく,1万円台で買えるところがすごいところです。ですので,数が出れば,こうした初期コストはかなり解決できるだろうと思っています。そして,「数万のデータが数億になったら,コンテンツとしてどんなことができるのか」ということが重要です。生活空間に測定機が入ることによって,新しい意味が生まれて来るのです。
 ものづくり企業は,一生懸命にユーザーのことを考えて仕事をしているのですが,なかなかうまくビジネスにつなげ切れないところがあります。そこで,わたしがお勧めしたいのは,「サービスも一緒にやったらどうか」ということです。先ほどのアシックスやモビーディックのケースがそうです。自社のお客さんに対して何かサービスを運用して,そのサービスを通じてお客さんのデータを集めます。お客さんのデータは勝手に取ってはいけません。お客さんの合意を得る必要があります。そのために,お客さんにサービスを提供するわけです。お客さんは,自分の靴の中敷きができるのであれば,当然,自分の足を測らせてくれます。そこで,もう一つの合意を取ります。「そのデータを統計処理したものを,うちの会社で使って良いですか?」と。すると,どのお客さんも「はい」と言ってくれます。なぜならば,統計処理をしてしまえば,そのデータはもはや10万人のうちの1人のものでしかないからです。それでも,その1人になることによって,10万分の1でも自分に合う靴ができてくる可能性があれば,お客さんは喜んでデータを提供してくれるのです。それが今,事実,ビジネスとして回っています。
 われわれはこれを「共創」と呼んでいます。共創というとお客さんが一緒に靴をデザインするかのように思われますが,そんなに大変なことをお願いしなくてもよいのです。お客さんに「足のデータを出してください」,「製品をどうやって使っているかというデータを出してください」,「そうすれば,あなたのために良いサービスを提供します」というサイクルがあれば,それを使ってものづくりビジネスを展開することができます。
 特にわたしは,地域差と年齢差,時代変化のあるコンテンツをいち早く集めることが重要だと思っています。もし,Googleの検索ログに地域差や年齢差,時代変化がなければ,情報収集という観点では皆さんでもあっという間にGoogleに追い付くことができます。しかし,現実には今のGoogleに追い付くことはそう簡単ではありません。地域差や年齢差,時代変化のあるデータは,早く集めた企業に追い付けないのです。こうしたコンテンツをいち早く集め,これを価値に変換できれば,これこそがまさしく競争力と言えます。

* 米Microsoft社が開発した同社のゲーム機「Xbox 360」向けの操作用装置。外部のコントローラーが不要で,人間のジェスチャーや音声によってゲーム操作を行う。


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産業技術総合研究所 持丸 正明

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