セミナーレポート

誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明

本記事は、画像センシング展2011にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。

体形データをサービスに結びつけている3社

 そうやってできた体形が何の役に立つのかというと,一番典型的なものがアパレル業界向けです。図4はオンワードが使っている事例です。左側の3人並んだ中央が女性の「9号サイズ」という衣服サイズのダミーです。その左が7号で,右が11号です。今までは,こうしたダミーをただ寸法だけ決めて,あとは粘土細工で作っていたのに対して,立体情報があり第一主成分が分かっていれば,それらによって顧客集団のダミーを作り,パターンを作り直すことができるというのがオンワードの考え方です。
図4 全身体形のBoundary Family

図4 全身体形のBoundary Family

 図5はアシックスの事例です。図の上の写真の中央にあるのが足の形状を測るスキャナーで,われわれが大阪にあるベンチャー企業と共同で開発したものがアシックスの銀座の店舗に入っています。アシックスは,そこでお客さんの足を測っています。そのデータに基づいて,お客さんごとに「こんなシューズがあります」と推薦するとともに,もし既存のシューズだけでカバーできない場合は,その足のデータを神戸の本社に送って,そこでカスタムインソールを作るというサービスを実施しています。お客さんはわざわざ神戸に行く必要はなく,「デジタル化されたお客さん」が神戸に飛んでいくわけです。こうしたサービスを通じて,アシックスは膨大な足のデータをためることができます。なんとその数は年間10万足分と聞いています。
図5 ラボ計測から店舗計測へ(アシックスの例)

図5 ラボ計測から店舗計測へ(アシックスの例)

 これらのデータを統計処理すると,お客さんにもっと合う靴を作ることができるようになります。アシックスは銀座の店舗のあと,2店舗目を原宿に作りました。3店舗目は本社に近い神戸に開くのかと思ったらそうではなくて,ニューヨーク,ロンドン,ベルリン,サンパウロ,アムステルダム……と展開していきました。そうやってアシックスは,今度は外国人の足の形状を集めているのです。外国人の足形状をアーカイブして,各国の事情に合った靴作りに使っていこうと考えています。こうなると,サービスを通じて膨大なデータを集め,それらを統計モデルにして――すなわちコンテンツにして――ものづくりに生かすサイクルが生まれて来ます。キーは,従来,研究室で集めていたデータを,今度は店舗で膨大な量を集めるようなサイクルを作り出したということです。
図6 体形データベースを用いて店舗計測を簡易化(モビーディックの例)

図6 体形データベースを用いて店舗計測を簡易化(モビーディックの例)

 もう一つご紹介しましょう。図6はモビーディックという,今回,東日本大震災で被災された石巻の会社のケースです。この会社では,店舗で体形を測ってカスタムメイドでウエットスーツを作っています。すべての店舗にスキャナーが入っているわけではなく,スキャナーの入っていない店舗ではお客さんの体形を巻き尺で測っています。測った寸法から,3次元の体形を復元します。どうやって復元するかというと,体形主成分を使っています。店舗で測った多くのデータを相同モデル化して,データベースをコンテンツ化しておきます。そうすると,20~25個ぐらいの成分でお客さんの集団を表現することができるようになります。
 お客さんはその20次元の超空間のどこかにいるわけですが,どこにいるのかを知るのはちょっと大変なことです。しかし,第1軸は身長で第2軸は太り具合と考えれば,皆さんの身長や胴周りを測れば,第1軸や第2軸のどこにいるのか推定できそうですね。こうやっていくつかの軸の成分を測ると,お客さんが20次元の超空間のどこにいるのか推定できるようになります。最初のモデルを作った時に,そうした推定式まで作ってしまえば,あとはお客さんの3次元形状を測る必要はなく,巻尺で測ったデータさえあれば立体形状が再構成できることになります。
 画像センシング展に来て「画像センシングがなくてもいい」という話をしているようですが,実はそうではありません。画像センシングを使ってデータを持っている人にしか,このマジックは使えないのです。つまり,体形主成分を作って固有値行列を持った人でなければ,巻き尺で測定したデータがあっても,それを元に戻すことができません。モビーディックは3つの店舗で持っているスキャナーをフル稼働させ,持続的にデータを集め,並行して集めたデータをモデル化して体形を作っていくというサービスをしています。
図7 フィットネスクラブで計測,体形シミュレーション(日本ユニシスの例)

図7 フィットネスクラブで計測,体形シミュレーション(日本ユニシスの例)

 さらにもう一件は,日本ユニシスのケースです。日本ユニシスは,フィットネスクラブにサービスを提供しています。フィットネスクラブに体形の計測装置が入っていて,そこでお客さんの体形を測ることができます(図7)。その場で相同モデルを計算して,20次元の超空間の中の座標を決め,3次元データから体形を復元できるようになっています。そこで,第2軸の太りやすさという主成分だけ動かすと,お客さんの体形を太ったり痩せたりさせることができます。図8のモデルはわたしですが,15.5kg太らせるとこんなふうになるというようなシミュレーションが,コンピューターの中でかなりリアルに表現できます。40代向けのデータでシミュレーションすると,しっかりお腹に肉が付きますし,20代向けのデータでやると20代らしい太り方になります。こうしたシミュレーションによって,お客さんのフィットネスに対するモチベーションをコントロールしようというものです。このサービスを行ったフィットネスクラブでは,サービスの導入によって離客率が1%改善したそうです。「たったの1%」と言われるかもしれませんが,フィットネスクラブの平均的な離客率は月3%ですので,3%が2%になったということは収益上非常に大きなことだと聞いています。

図8 「からだすっきり3Dナビ」(http://www.karada3d.net/,Kouchi et, al., AHFE 2010)

 日本ユニシスではこのサービスをクラウド型にしたので,ユニシスのクラウドにデータを送らないと体形シミュレーションができません。ユニシスがたくさんのフィットネスクラブと契約すれば,それらのクラブからどんどんクラウドに体形データが集まり,それをコンテンツ化する仕組みになっています。ここから,相同モデル化したデータを平均化して,アパレル業に2次的に販売することも考えられます。

<次ページへ続く>

産業技術総合研究所 持丸 正明

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