セミナーレポート

誰にでもわかる車載画像処理 ~車の周囲を見る技術・見せる技術~日産自動車(株) 下村 倫子

本記事は、画像センシング展2010にて開催された特別招待講演プレインタビューを記事化したものになります。

あまり複雑なことはやっていません


聞き手:早速ですが,画像センシング展2011のイメージセンシングセミナーでは,どのようなお話を聞かせていただけるのか,ご紹介いただけますでしょうか?

下村:クルマのリアビューカメラを始めとして,運転席から後ろを見たり,横を見たりするようなカメラが普及し始めているのですが,ただ単にカメラを付けるだけではなく,そこに工夫を加えることによっていろいろな効果や付加価値を生み出せる話をしようと思っています。例えば,明るさや撮影範囲をどう決めるのかとか,また,カメラの映像に線を入れるだけで分かりやすくなるとか,単純ですが大切なことを紹介する予定です。

聞き手:具体的にはどのような内容になるのでしょうか? 簡単に,で結構ですので。

下村:日産自動車(株)には「アラウンドビューモニター」という製品がありまして,その開発の中で具体的にどういうことをやっているのかご紹介しようと思っています。技術的なことをご存じの方にとっては非常に簡単な内容だと思うのですけれども,実際にやろうとすると,結構,工夫が必要だったので,そういうところを中心にお話ししようかなと思います。
 カメラの座標変換のような幾何学的な計算だけやれば,確かに技術的には簡単にできてしまうのですが,そうは言っても,あまりに表示が小さ過ぎたら見えないとか,一方で大き過ぎたら今度は映像を見るのが大変だとか,さらにお金がかかってしまうとか,いろいろ現実的な課題があります。「じゃあ,どの程度のころ合いがいいのか」という部分に工夫が必要なので,そういうところを紹介する予定です。また,表示される映像ではクルマの周りを1つの画面に映さなければいけないのですが,実際にカメラは複数台使っていますので,それをどうやってつなげたのか,というような話も紹介します。

聞き手:私の友人がつい最近,日産のワンボックスカーを購入し,付属のアラウンドビューモニターを自慢げに説明してくれました(笑)。見せてもらったところ,まるで空からクルマを見ているようで,とても鮮烈な印象を持ちました。あれは,具体的にどのようなことをやっているのでしょうか?

下村:本当はとても簡単なことなのです。クルマの全周を撮像できるような位置に4つのカメラを取り付けます。カメラと地面との相対的な位置座標が分かれば,一つ一つのカメラの画像は座標変換によって変換できます。4つの画像をつなぎ合わせれば,周囲を真上から見た映像になります。高校生の幾何学で解こうと思えば解けてしまうのです。ただし,これはカメラを理想通りの位置・向きで取り付けることが可能であれば,という仮定の元に成り立つ話です。実際にはカメラを1°たりともずれないように取り付けるのはほとんど不可能です。このずれの補正がソフトウエアで行う工夫の一つとなります。

聞き手:カメラは市販のものを使うのでしょうか? それとも,特注でカメラメーカーに作ってもらうのですか?

下村:製品にしたものは,特注だと記憶しています。ただ,レンズやカメラなどの部品は,できるだけ市販のものを使うことが望まれると思います。市販でそろえられるものを活用できた方が安く作れますからね。

聞き手:特注で作ると高くなってしまうのですね。

下村:そうですね。実験の段階では,高価で性能の高いレンズを使うこともありますが,実際に商品にするときは価格の安いカメラが望まれます。

聞き手:カメラが映す対象は,基本的に地面ですね。撮影対象としては比較的単純と言ってしまって良いのでしょうか?

下村:処理そのものは単純です。対象が道路と仮定して,つなぎ目の線が真っ直ぐになるように合わせているだけなので。ただし,物体認識はしていませんので,撮影視野に物体があったときには歪んでしまいます。重要なのは,きれいな画像を見せることではなく,「分かりやすい画像」を見せることです。仮に,きれいな画像になるように修正したことで本当の位置関係と違う表示をしてしまうと,クルマを運転する側にとってむしろ困ることになります。「一度でクルマの周囲全体を直感的に把握できることが重要」という観点で作っています。

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日産自動車(株) 下村 倫子

1991年,東京農工大学 工学研究科 電子情報工学博士前期課程終了。1991年4月,日産自動車(株) 総合研究所電子情報研究所に入社。現在,同社モビリティ研究室にて,運転支援に関する研究開発に従事(工学博士)。

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