セミナーレポート

誰にでも分かる,サービス現場でのユーザー特性の画像センシング技術 ~ユーザーの体形,運動,行動センシング~産業技術総合研究所 持丸 正明

本記事は、画像センシング展2010にて開催された特別招待講演プレインタビューを記事化したものになります。

精度の研究室,数のサービス現場


持丸:また,ヒトの計測には,そんなにリッチなモーションデータや形状データが必要なのかという疑問がわいてきます。例えば,人間の体の形が10万個の頂点座標を使って表せると考えて,それを何人分も集めて,ある種の統計処理をしたところ,実は人間の体の個人差というのは,20個ぐらいの主成分で記述できることが分かっています。つまり,10万個の座標情報は本当は必要なくて,個人差を見るだけなら,20個の情報があればいいということです。
 これを実際のサービスに落とし込んで考えると,まず実験室から産業界に計測技術が入っていきますね。そこでメンテナンスフリーになって運用コストが下げられ,現場のサービスに持ち込まれます。現場のサービスではデータがたくさん集まります。そのデータを統計処理すると,実はそんなにリッチに測らなくてもいいということが分かるわけです。すると,今度は計測を簡便化することが可能になります。つまり,計測器の進化によって計測が簡便化するのではなくて,計測器とデータ自身によって計測が簡便化するようなことが起こります。

聞き手:コスト削減の良いスパイラルが出来上がるわけですね。

持丸:そうです。今われわれがやっている研究では,数少ない体の寸法から「あなたの立体的な体を構成してしまう」ことができるようになります。巻き尺が何個かあれば身体の立体的な形が測れるということです。そこまで行かなくとも,米マイクロソフト社の「キネクト」のような技術を使ってヒトの体の何面かだけ写真を撮って,それに形状をフィッティングしてしまうようなこともできます。そうすることで,計測にかかるコストはガタンと下げることができます。そうなると,今まで考えられなかったようなサービスが出てきて,さらにもっと膨大なコンテンツが集まるようになってくるというのが,現在,私が考えている人間計測に関する一つの動向だろうと思っています。

聞き手:研究室レベルの高精度な測定は不要になっていくのでしょうか?

持丸:いえ,無くなるというわけではありません。精度の高い研究室用も存在するし,低コストな産業用も存在していきます。しかし,今その最先端はどこにあるかというと,たぶん,いかに運用コストを安くしてサービスフィールドに計測が入るかという方だと思います。「運用コストが○○まで下がったらやってもいい」というサービス業者が出て来て,その人たちがいち早くデータを集めると,データを集めた人たちはそれを使ってもっと安い計測器を作ることができて,それで,例えば,自宅にいても体の形を測れてしまうとか,そんなレベルのことがだんだんできるようになります。
 両者の間では,データの精度と数が違います。実験室では精度が良くて数が少ない。サービスや生活に計測が入ってくると,精度は悪いけれど信じられないほどの数がある。もちろん,世界的にも広がりが出てくる。そのようにそれぞれが進化していくのではないかという話をセミナーの当日はしようと思っています。

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産業技術総合研究所 持丸 正明

1993年,慶應義塾大学大学院 生体医工学専攻 博士課程修了。博士(工学)。同年,工業技術院生命工学工業技術研究所入所。組織改編により2001年より産業技術総合研究所。デジタルヒューマン研究ラボ副ラボ長。2010年,デジタルヒューマン工学研究センター センター長。および,サービス工学研究センターのセンター長を兼務。計測自動制御学会,日本人間工学会,IEEEなどの会員。人体の形状,運動の計測とモデル化,産業応用に関する研究に従事。

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