【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

絶体絶命のピンチととらえられがちなことにも,必ず突破口はある株式会社日本レーザー 近藤 宣之

経営は,動いている中で,走りながら考えている

聞き手:日本レーザー輸入振興協会を通してレーザー業界を引っ張ってこられたわけですが,レーザー専門商社としての日本レーザーの強みは,どんなところにあるのでしょうか。

近藤:最大の強みとなるのは,ファイナンスの力があるということです。レーザーの専門商社としても一番古くて,最先端の研究開発のためのレーザーを提供しているのです。特に最近では,予算が国家プロジェクトみたいなものにしか付かなくなってきているわけです。そこで,例えばこれまで進めてきたものに,大阪大学のレーザー研との開発があります。
 レーザー研では,大型の予算が付くと,その予算の中で最先端研究をします。非常にハイパワーのレーザーを開発するのに,最終的には日本で国産化したいので,生産の委託をするわけです。「この予算で,こういうスペックで,こういう内容の物を作ってくれ」と教授から言われます。最先端の研究のため,開発するしかないので,われわれが,これで受けられるかを,海外のレーザーメーカーであるアンプリチュード・テクノロジーズ社と相談して,「受けられそうだな」となれば,「開発をしてくれ」と発注することになります。今までのレーザー商社の役割は,海外メーカーが作って出来上がった完成品,スタンダード品を輸入して売るというパターンでした。
 開発の納期は,1.5年ほどです。費用はこちらが負担するのですが,前払いなのです。その時に,小さい商社では,こういう商売は対応できないということなのです。だって,お金が一銭も入ってこないのに,1.5年間にわたってこの莫大な開発コストを払わなければいけないのです。それを今うちができているのは,レーザー専門商社の中では一番大きくて,売上も40億円ぐらいあるからです。従業員もフルタイムだけで55人,総勢60人になります。財政的にも,今は無借金経営だからできるわけです。小さいレーザー輸入の専門商社では,とても太刀打ちはできないです。日本法人で大きいところはいっぱいあるわけですが,親会社である海外のメーカーの物しか日本で売っていませんから,請負なんかできるわけがないです。研究開発用のレーザーは,どこも作らないので,そこにわれわれの役割があるということなのです。だから,それが日本レーザーの強みなのです。
 2つ目は,日本で一番古いレーザー専門商社という歴史と伝統があるということです。50年やっているから顧客ベースが厚くて技術力が高いという,レーザー専門商社としては最大・最強ということになります。
 ただ,この業界はM&Aもとても多いのです。経営をやっていくには,そこが大変なのです。動いている中で,走りながら考えているわけですよ。M&Aがあるとはまったく知らずにセールストレーニングを受けていて,会社がなくなるからそこの商品が売れなくなったということも,これまで何回もありました。でも,M&Aは水面下で売るのが常とう手段だから,「君たちには悪かったね」で終わってしまうのです。
 だから,この業界は売上も凸凹するのですね。普通は,こんなには凸凹しないですよね。だから,そこがうちのつらいところですね。なので,普段からアンテナを張って,新しい会社が出てきたら唾を付けておくとか,紹介してもらうことで,毎年とにかく提携先を増やしていくことが1つあるでしょう。
 企業が生き残っていくための最大の条件というのは,売る物を確保していくということです。どこでもそうでしょうがね。売る物を自分たちで作るというやり方が1つ,これはメーカーですよね。それから海外にある物で,最先端で日本にない物を輸入して販売する,これは商社ですね。うちは今までは商社と,レーザーリペアとか,レーザーマーカーとか,あるいは光ディスクの原盤装置などの自社品の開発をやっていました。今は海外の最先端の物を輸入するか,海外に最先端の物がなければ,日本のお客さんが要求する最先端の物をグローバル開発で作ってもらうか,です。これが,いま一番うちが差別化できる点です。それからもう1つは,次から次へとM&Aで切られたりしますから,どんどん代替品を確保していくことが大事になってきます。今までは欧米だけで良かったのですが,最近は中国の展示会に行ってみると,はるかにメーカーが多くて,ほとんどまねしているのですけれども製品がよくなってきているのです。ですから,社員を中国の展示会にも行かせて,情報収集してくることが大事です。
 あと,これから力を入れていくこととして,メディカルに進出します。レーザーを使ったがん治療器を開発しています。高齢化社会だからみんな病気になるし,2人に1人はがんになるから,がん治療器は伸びるわけです。だから,そこに目を付けたわけです。
 医療器に出ていくというのは,従来の延長の代替品のビジネスではないので,経営戦略も問題になってきます。使う技術は光とレーザーだけれども,ビジネスモデルは全く違うわけです。第一,売るのに薬事法で厚生省の許可がないと売れないのです。そのために,うちには経験がないから,いろんな経験のある人を,相談相手とか,コンサルタントとか,アドバイザーにしています。今ドイツのうちのレーザーメーカーが,がん治療器を作り始めたのがきっかけで,アメリカに50台ぐらい売っていますけれども,全部治験の段階なのです。成果があることが分かってきたのですけれども,これがアメリカのFDAの許可が取れるのが,来年か再来年になってくるでしょう。そうすると,FDAの許可のない物を,日本の厚生省の薬事法の許可なんか取れませんからね。アメリカで許可が出てから,厚生省を説得するという流れになるので,このプロジェクトは,時間がかかるでしょうね。2~3年はかかると思っています。今までの事業に比べると,はるかに難しいだろうと思いますけれども,需要はあると思います。

光は無限の可能性を持っているところが面白い

聞き手:最後に,光学のことを学んでいる学生や若手技術者などに向けて,光学分野の面白さについてメッセージをお願いします。

近藤:20世紀は電子・エレクトロニクスの時代で,電気とか半導体,コンピューターが盛んだったのですけれども,21世紀は光の時代だと言われているように,すべてのエネルギーというのは,もともと光から来るわけですね。その光の研究によって,最先端のがんの治療器みたいなものが出てきています。光って非常に面白いわけで,その証拠に,レーザー輸入業界の特徴の1つとして,業界内での転職が多いのです。いわばレーザー輸入業界を1つの会社に見立てれば,その中で人事異動(!?)しているようなものです。
 とりわけ業界では歴史のあるところから多くの人財が輩出され,他社で活躍されています。ピーク時には日本レーザー出身の業界の社長が15人もいた時もありましたし,ほかの会社からも多くの社員が日本レーザーに入社しています。
 海外メーカーの人間でも,いったんレーザー会社に入ると,他の業界には行かないです。個人の才能で,次から次へと会社を作って大金持ちになっていく人がいっぱいいるという面では,面白い業界です。みんなグルグル回っていて,よその業界に出ていかないのです。技術屋としても面白いし,ビジネスとしても面白いし,代理店をやっても面白いし,何をやっても面白いのです。
 ほかの,自動車とか半導体とか電機メーカーというのは装置産業で,莫大な何千億円とか何兆円というようなビジネスの一部になってしまっているから,自分1人がやっていることに対して手応えがないのでしょうね。ところが,レーザーは小さくて手作りですから,事業も数億円から数十億円まで立ち上げたら大成功ですから,このぐらいの会社の経営というのは見えるわけですから面白いです。しかも,開発から設計,製造,セールスからサービスまで,一気通貫型で全部事業として見えます。才覚があってバイタリティーがあれば,世界のメジャーに簡単にのし上がれます。ものづくりでのし上がれる可能性は非常に少ないですから,すごい魅力があります。
 それでいて,光はあらゆることで欠くことができませんからね。光のない世界というのあり得ないわけですから。そういう面では,光というのは無限の可能性を持っているわけですね。そこが面白いところです。だから,医療分野にしても,この光を使って画期的なことができる可能性が強いですね。
 例えば先ほどもお話した,がん治療器というのは,近赤外線レーザーを使った治療器です。まずがん細胞にくっつく薬剤を注射し,その後がんの部分にレーザーを当てると,がん細胞が破裂するという原理です。がん細胞以外は影響を受けませんから,エックス線治療のような副作用はありません。アメリカでの治験では転移したがんにも効果が期待できるとのことです。装置の価格は未定ですが,高くても数千万円はしないようになればと期待しています。
 一方,陽子線治療装置や重粒子線治療器というのは,何億円とか数十億円とします。それから免疫療法で特殊な抗がん剤などだと年間で1人3,000万円もかかるから,国の財政が破たんしてしまうわけです。だから,レーザーを使ったがん治療器による治療が数十万円程度でできるならば,3,000万円の免疫療法よりはるかに安いわけです。
 それが,これからの未来なのです。3,000万円もかかるような免疫療法に比べれば,治療費なんてそれほどかからなくて,国の財政も救うようなことを光でできるわけです。光ががんを救うのです。
 そういう光のもつ無限の可能性を,若い人たちにはこれからもっと広げていってほしいと思いますね。
近藤 宣之

近藤 宣之(こんどう のぶゆき)

1968年3月 慶應義塾大学 工学部電気工学科卒業。同年4月 日本電子㈱に入社。電子顕微鏡部門応用研究室に勤務。1970年5月~12月 当時のソビエト連邦レニングラードとモスクワに駐在。1972年9月 全国金属産業労働組合同盟(ゼンキン同盟)日本電子労組執行委員長,東京地方金属副執行委員長,ゼンキン同盟中央執行委員兼任。組合役員退任後,経営管理課長,総合企画室次長等を歴任後,1984年11月に米国法人副支配人に就任。1987年4月 米国法人総支配人。1989年6月 日本電子㈱取締役兼米国法人支配人。1993年1月 同社取締役営業副担当。1994年5月 ㈱日本レーザー代表取締役社長に就任。1995年6月に日本電子㈱取締役退任後,㈱日本レーザー社長専任。1999年2月 日本レーザー輸入振興協会会長。2007年6月 JLCホールディングス㈱設立,代表取締役社長に就任。同時にマネジメントエンプロイーバイアウトにより日本電子㈱より独立。2018年2月 ㈱日本レーザー代表取締役会長に就任,現在に至る。2018年2月 JLCホールディングス㈱代表取締役会長に就任,現在に至る。2018年2月 日本レーザー輸入振興協会顧問に就任,現在に至る。
●主な活動・受賞歴等
2011年5月 第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞,中小企業庁長官賞受賞。2012年1月 平成23年度新宿区「優良企業表彰」,大賞(新宿区長賞)受賞。2012年10月 第10回東京商工会議所「勇気ある経営」大賞,大賞受賞。2013年2月 関東経済産業局「女性活用ベストプラクティス」に選定 2013年3月 経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」全国43社に入選,受賞。2013年4月 経済産業省 「おもてなし経営企業選」全国50社に入選,受賞。2013年11月 東京都「平成25年度東京ワークライフバランス認定企業 - 多様な勤務形態導入部門」に選定。2013年12月 経済産業省 「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選定。2015年10月 厚生労働省「キャリア支援企業表彰2015」に選定。2016年2月 日本能率協会「KAIKA大賞2015」で「KAIKA賞」受賞。2016年6月 新宿区「ワーク・ライフ・バランス推進企業」認定。2017年1月 ホワイト企業大賞委員会「第3回ホワイト企業大賞」受賞。2018年2月新宿区「ワーク・ライフ・バランス アイディア賞」受賞。

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