【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

人を引き付けるようなテーマを見つけて光学を盛り上げてほしい東京工芸大学 中楯 末三

研究そのものを苦労と思ったことはない

聞き手:研究なさっているなかで,ご苦労されたことはございますか。

中楯:理研のときからある程度,自分の興味本位で何かやってきていて,途中で何かしら鉱石を見つけるという感じでした。見つけられたのが金鉱石だったら,ノーベル賞とかになるのでしょうが,見つけられないまま,研究から外れる研究者のほうが多いのかもしれないですね。私は興味本位でいろいろやってきたのですが,後になって振り返ってみると,世の中に大して役に立っていないかなあと思ったりもします。
 研究そのものを苦労と思ったことはありません。ですから,何年間かをかけて,これが当たればこうなるという予想の下で研究をやったほうが良かったかもしれなかったですね。でも,それで金鉱をあてることができるかどうかは分かりません。世の中ではやっているほうに行こうとすると,駄目になることも多く,なかなか狙ってできるものではありませんから。でも何も狙わないのも,学会で発表するためだけの研究になってしまいます。もちろん,自分の業績を上げるという意味では,それはそれで大事なことだとは思いますが,興味があるところを掘り続けていくことは必要だと思います。

途中で立ち止まって振り返ることも必要である

聞き手:最後に,光学分野の学生や若手研究者などに向けて,光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

中楯:何か途中まで歩いてきたら少し振り返るということが必要なのかなということです。それは,仕事も同じでどこかでちょっと一回立ち止まって考える時間が必要なのかもしれません。次から次へとやっていくと結局振り返る時間がなくなってしまいます。途中まで来たらちょっと止まって景色を眺めるくらいの感じで,社会を少し見る余裕があるといいと思います。
 そうすると,駆け引きもうまくいくようになります。私も理研に来たばかりのころはほとんど駆け引きもできませんでした。研究費も豊富にあり,申請書を書くこともありませんでした。常に進み続けないといけないので,途中で立ち止まることはできませんでした。
 昔はレーザーの登場やホログラフィーのように,魅力的なこれからの分野が多くあり選択肢がたくさんあったので人も集まってきましたが,最近では,そういうものが少なくなっているように思います。何百年に一回か出るかどうか,というようなテーマが登場すれば,また光学に人が集まるのではないかと思います。青色LEDのように何か人を引き付けるようなテーマを見つける必要があると思います。どこかにかくされているはずですので,それを若い人が見つけて盛り上がってくれると一番いいですね。
 理研にいたときは自分1人で何でもできたのですが,大学だと学生もいるし同僚もいるし,自分1人というわけではなかったので,研究以外のところで結構エネルギーを使うことになりました。研究には限られたエネルギーしか使えないという気がしていました。両方好きな人もいるのかもしれないのですが,私のように人とのやりとりにエネルギーを使うのがあまり好きではないというタイプの人間がいると思います。大学によるとは思いますが,そういうタイプの方は大学で仕事をしていくことはなかなか難しいのではないでしょうか。研究費を持ってこないといけないとか,人も持ってこないといけないとかいわれるところでは,うまく回していけない人にとってはなかなか難しいと思います。
 昔は研究室が大体2人体制ぐらいの講座制でした。教授がいて助教授がいて助手がいてとなっていましたが,下の人がなかなか上にいけず,芽を摘んでしまうといわれたりして,今は1人の研究室が多いのではないでしょうか。東京工芸大学でも外から若い先生が来ても1人で独立してやっています。もちろんいいところもありますが,ある面では雑用も何もかも全部ひとりでやらなければいけないということです。つまり,若い人が好きなように研究ができる時間は,昔より少なくなっているように思います。研究室によっては,上の人がこうしろ,ああしろと言って,忙しい助手や助教授もいたのかもしれませんが,上に教授がいて,ある程度防波堤になってくれて,自分たちは好きなように,雑用もしなくて研究ができたということもあったと思います。今は若いときから1人なので,その人に能力があれば人もお金も持ってきていろいろやれるのでしょうが,雑用もかなりあるので,そちらにエネルギーを取られて,うまく研究が進んでいかないところもあるのかもしれません。ほかのことに時間を取られると,やる気が失われるのではないかという気がします。
 日本の今の講座制をやめたのは,おそらくアメリカの研究室のような,教授がお金も人も全部持ってきくるスタイルを想定していたのではないでしょうか。ただ,アメリカの環境と日本は違いますからね。いろいろな研究費をアプライして持ってくるのがスタンダードな考えのところと,日本とでは大きな違いがあると思います。ですから,その環境に合わせた研究室の構成なり何なりを,ある程度自由にできるようにしたほうがいいと思います。
 東京工芸大学では研究がメーンというよりは,教育に重きをおいていますが,教育オンリーだとまた駄目になってしまうと思います。レンズに興味がある,あるいは光学に少しでも興味がある学生もまだまだいますので,その数が少しでも増えるように私も頑張ろうと思っています。
中楯 末三

中楯 末三(なかだて・すえぞう)

1952年 長野県生まれ 1976年 山梨大学 工学部 電子工学 1978年 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 物理情報工学 1978年 理化学研究所 光学計測研究室入所 1986年 工学博士(東京工業大学:変形・振動の画像計測法の研究) 1989年 東京工芸大学 工学部 写真工学科 助教授 1995年 ロチェスター大学(USA)光学研究所(ダンカン・ムーア研究室)1年間滞在 1998年 東京工芸大学 工学部 教授
●研究分野
応用物理学・工学基礎,応用光学・量子光工学,光計測,画像・光情報処理
●主な活動・受賞歴等
1988年 光学論文賞(応用物理学会) 1991年 日本光学会(応用物理学会)幹事 2001年 日本光学会(応用物理学会)副幹事長(OPJ2001担当) 2010~11年 日本光学会(応用物理学会)常任幹事(OR出版委員長) 2014~15年 日本光学会(応用物理学会)常任幹事(OR編集委員長) 2016年(一般)日本光学会 OR編集委員長

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