【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

面白い種はいっぱい転がっているから,気がついたらおやりなさい東京工業大学 辻内 順平

何でもいいからやってみると次から次にテーマが出てくる

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けて光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

辻内:このごろ,日本は光学の研究が随分減りました。いっとき,「光学」の名前を付けた大学とか学科とかがたくさんありましたが,今,残っているのは,東海大学理工学部光・画像工学科と徳島大学工学部光応用工学科くらいです。また,8月にICO-24が東京で開催されますが,応募論文数の立ち上がりが遅く締め切りが延期されたと聞いています。
 それでこれからどうしようかということです。
 光学機器を扱う会社も,製品も減ってきています。昔は製品も会社もたくさんあって,2眼レフカメラの名前がAからZまで全部そろったという話もありました。今は大手のメーカーだけが残っています。学会でも,参加者が減っているようです。
 ですから,若い人で光学をやろうという人がだんだん少なくなるのも無理はありません。
 大学の講義も,光学は人気がないのです。私が受け持っていた講義「光工学」も,初めはたくさん来るのですが,どんどん学生が減りました。これは,私が学生のときも同じです。
 私は,光学の講義を東大理学部の物理系教室で聞いていました。小穴純先生という有名な先生の「幾何光学」の講義でしたが,初めはいっぱいいるのにだんだんと減り,2カ月ぐらいたつと,大体半分になります。結局,半年間初めから終わりまで聞いたのは,私を含めて2人だけでした。
 昔はカメラもたくさんありました。このごろのデジタルカメラは,安価なものでも,結構よく写りますし,昔は画像処理なんて,そう簡単にできなかったわけですが,今は簡単にできてしまいます。スマートフォンや携帯電話についているカメラでも結構いい写真が撮れるでしょ? ああいったものを見せられると,光学なんてやっているのがばかばかしくなる,そういう人が多くなっても仕方ありません。
 そう考えると今は便利過ぎて,それがかえって皆さんの研究意欲をなくしているのかもしれないと思います。
 例えば,どのように直しているかということを,ちゃんと考える人もだんだんいなくなってきました。写真なら,引き伸ばし機の印画紙を斜めにし,引き伸ばしレンズを絞り焦点深度を深くして,それで撮ったときと逆向きに斜めにすると,ちょうど元へ戻ります。そうして修正をしていましたが,いまはPhotoshopなどの便利なソフトウエアがありますから,すぐ処理ができます。昔は撮った写真をPhotoshopに取り込むことも一苦労でしたが,今は始めからデジタルデータになっていますからとても簡単です。
 逆に言うと,光学の使い方がだんだん易しくなったのです。昔は随分苦労していたから,そのために何かもっとうまくいく方法を考えようとして,いろいろ試行錯誤をしている人が多かったのですが,もう必要が無くなってきたのでしょうね。
 光学というのは,随分と古く,昔からある学問です。というのも,人間の五感のうちで一番情報量が多いのが目で,その目で見るのと同じことを機械にやらせようというのが,光学になりますから。
 ですから,若い人に伝えるとすれば,私に言わせれば面白い種はいっぱい転がっているのです。種はいっぱいありますから,気がついたらおやりなさい。何でもいいからおやりなさいと。
 ひとつうまく行くと,次から次にやりたいことが出てきます。ここまでやったから,この先をもうちょっとやってみようとか,やっていくと,面白くなるので,そういう体験を増やしていってほしいですね。
 研究をやろうというとき,あまり初めから気宇壮大な計画を立てないほうがいいと思います。これは挫折しやすいのです。
 そういったことは大学でいえば,教授や准教授の仕事で,企業で言えば経営者や各部門のヘッドの仕事です。若い研究者は,そんなことを考えずに小さなテーマでいいですから,気が付いたことを何でもいいからやるといいのです。
 ひとつやってうまくいくと,すぐ学会誌のレターに投稿すればよいのです。私は雑誌が来ると一番始めにレターを読みます。始めは研究ノートを書いていましたが,それよりもレターを書いて投稿した方が,早いのです。Full paperはレターで報告した研究をまとめてゆっくり書けば良いのです。
 それからできるだけ英語で発表することをお薦めします。国際的にpriorityを得るためには,残念ながら日本語は適当ではありません。また,学会で口頭発表する時は,まず論文とかレターを投稿してからにするとよいです。論文には必ずReceivedとかAccepted:と日付が書いてありますが,その日付が大切です。連名の場合は所属機関で内規がある場合がありますので,それにしたがってください。
 以上,いろいろ細かいことを並べましたが,余りうるさく思わないでその意図するところをくみ取っていただければ,幸いです。
辻内 順平

辻内 順平(つじうち・じゅんぺい)

1951年3月 東京大学理学部天文学科卒業 1951年4月 通産省機械試験所研究員 1958年9月 Institut d'Optique(Paris)留学 1959年9月 CNRS(Centre National de la Recherche Scientifique)研究員 Institut d'Optique勤務 1959年9月 機械試験所 休職 1960年5月 帰国・旧職複帰 1962年3月 工学博士(東京大学) 1968年4月 東京工業大学教授(工学部) 1988年3月 東京工業大学定年退官 1988年4月 東京工業大学名誉教授 現在に至る 1988年4月 千葉大学教授(工学部) 1993年3月 千葉大学定年退官
●研究分野
応用光学(光情報処理・ホログラフィー・光学計測)
●主な活動・受賞歴等
1981年9月 ICO(International Commission for Optics) 会長(84年8月まで) 1988年4月 応用物理学会会長(1990年3月まで) 1995年7月 日本医用画像工学会会長(2004年6月まで) 1996年 名誉博士(INAOE,メキシコ) 1972年 OSA(USA)フェロー 1990年 SPIE(USA)フェロー 1990年 Institute of Physics(UK)フェロー 1962年 光学論文賞(応用物理学会) 1981年 技術賞(日本写真学会) 1987年 会長特別賞(SPIE,USA), J. Petzval賞( ハンガリー) 1997年 C.E.K. Mees Medal(OSA,USA) 2004年 藍綬褒章 2011年 業績賞(応用物理学会) 2017年 Emmett N. Leith Medal(OSA,USA)

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