【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

技術者になりたいという子どもを増やしたい静岡大学/兵庫県立大学 寺西 信一

多くの人に理解してもらえるところが面白い

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けて光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

寺西:光というより,イメージセンサーの面白さになりますが,イメージセンサーは画が出ます。見たままが映るわけです。つまりすべての人が評論家になれます。実際私の家族からも「ここは実物と違う!」と言われました。厳しいと言えば厳しいですが,みんなに理解してもらえるという意味で,画が出るというのは非常に楽しいです。例えば,新しい試作品を作って最初に画が出たときは,とても感動します。それがどんなにきたない画であってもです。ただその日にそれ以上見ていると技術者の立場で欠点が見えてくるので,さっさと飲みに行きます(笑)。みんなプロですから10分も見ていると,粗ばかり見えてくるのです。ですから画が出た,良かったなで,その日は仕事を止めないといけません。ともかく,画が出るということで,多くの人に理解してもらえるところは面白いです。
 さらには,紫外線や赤外線などの可視光以外の波長の画も見られます。昆虫は紫外線も見えますが,人間はどこかでその能力を捨ててしまいました。でもイメージセンサーを使うことでその捨ててしまった画を見ることができます。逆に赤外線になると,最近は当たり前のように使われている熱の分布も見ることができます。普段は見ることのできない映像が見られるのはとても面白く,つい遊んでしまいます。偏光もそうです。自分の感覚にないものが見られるというのは面白いと思います。
 波長だけではなく,時間軸もあります。スポーツ番組や科学番組で使われるようになった,わずかな時間の変化を逃さない高速度カメラや,逆にタイムラプスのように1日1回撮影した画像を後でつなぎ合わせる処理をしたビデオはとても楽しいです。
 イメージセンサーの最近の成果としては,フォトンカウンティングでしょうか。以前はフォトマル(光電子増倍管)を使用していましたが,ようやくノイズ低減が大きく前進してきて,フォトンを1個1個見られるという究極のイメージセンサーを今まさに開発しています。X線では既にフォトンカウンティングができます。それを可視光領域でもやりたいということです。
 イメージセンサーはシリコンで回路を作り,その上に光学素子を乗せています。感度を上げるためにはこの光学素子が重要になります。普通のレンズは大体が光線追跡,つまり幾何光学ですが,イメージセンサーではサイズが小さく,例えば今のスマートフォン用で1画素が1ミクロンほど,つまり光の波長と1つのセルの大きさがあまり変わらないため,波動光学を使ったシミュレーションで設計しています。そのため設計が複雑になり,より光学的センスが必要になり面白くなっています。
 応用にも面白さがあります。昔は,真空管の一種である撮像管の代わりということで,ビデオを撮る用途に限られていました。NTSCやPALといった規格に合わせて作っていました。
 ところが,デジカメの登場で規格から離れて,画素数競争が激しくなりました。さまざまなフォーマット,いろんなバリエーションで作ったりしました。先ほどの高速度カメラのようにカスタムイメージセンサーを作ったりしています。今ではいろんな人がいろんな使い方をしていて,イメージセンサーメーカーの人が,こんな使い方があるのかと驚くほどです。画像を画像として利用するのではなく,特徴量を抽出し,それら特徴量のみを利用するといった用途が増加しています。虹彩認証などの生体認証,車の前方障害物の検出,必要な部品を見つけてつかみあげるロボットなどです。
 新しい応用には,既にあるセンサーを少し違った使い方をする場合と,その特徴にあったセンサーをカスタム的に作る場合があります。今まで全くイメージセンサーに触ったことがないような人がカスタムのイメージセンサーを必要とする,そういう時代になってきました。いろいろなところにあるニーズや創意工夫があり,それらを見つけていくことも面白いと感じています。

(本インタビューは2017年4月10日に行いました)

寺西 信一

寺西 信一(てらにし・のぶかず)

1978年 東京大学理学系大学院物理学専攻修士課程修了 1978年 日本電気株式会入社,イメージセンサーとカメラの開発に従事 2000年 松下電器産業(現:パナソニック)株式会社入社,イメージセンサーの開発・マーケティングに従事 2013年 同社定年退職 2013年 国立大学法人静岡大学 電子工学研究所特任教授(現在に至る),低ノイズ化及びフォトカウンティングイメージセンサーの開発,新機能イメージセンサーの開発 2013年 公立大学法人兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所特任教授(現在に至る),X線イメージセンサーの開発 2013年 International Image Sensor Society President(現在に至る)。
●職務内容
イメージセンサーの開発
●主な受賞歴等
1993年 全国発明表彰経済団体連合会会長発明賞 1997年 科学技術庁長官賞研究功績者 2000年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞 2003年 映像情報メディア学会フェロー 2010年 IEEE Fellow 2010年 英国王立写真協会進歩賞,および名誉フェロー 2011年 米国写真協会進歩賞 2013年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞功績賞 2013年 山崎貞一賞 2013年 IEEE EDS J.J.Ebers賞 2017年 エリザベス女王工学賞

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