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ペロブスカイトの成功は人のつながりがなければ成し得なかった桐蔭横浜大学工学部 大学院工学研究科教授 宮坂 力

本当は建築がしたかった

聞き手:化学から光学分野に進まれたきっかけ,また,光学に興味を持たれた理由などをお聞かせください。

宮坂:私は本来,化学希望ではありませんでした。本当は建築がしたかったのです。大学院で建築に推薦がありましたが,やってほしいのは建築材料だというのです。ところが私の父が建築会社にいたのですが,建築の中心はデザイン,意匠で建築材料ではないというのです。それに衝撃を受けまして,この際方向転換をしようと考えて化学に行くことしました。ただ,どうせなら化学の中でも少し変わった分野にいこうと考えあちこち受験をしました。
 私は,高校受験ではトップで入学しました。ところが高校が嫌いになってしまい,成績もガクッと下がって親が呼び出されたりもしました。その当時は公害問題の影響もあり化学は不人気で,だから不本意だけれども化学ならば大学に受かるという感じでした。
 また。ちょっとした下心もありました。研究を続けて将来博士号を取るとかは考えていませんでしたから,就職のことを考えていたのです。そこで就職にはいわゆるつぶしが利く分野がいいだろうと考え,さまざまな物質を扱う化学にしました。どの分野でも材料を使わないということはないですから,そういう点から化学を選んだのです。
 化学の神髄は有機物の合成ですが,そこから少しはなれたところに物理化学があります。これは材料や物質を物理の手法で研究するものですが,その中に電気化学という分野があり,日常生活ではバッテリーなどに深くかかわっています。東京大学の工学研究科で,この電気化学に光を取り入れる研究に取り組んでいるところがあると知り,そこに行くことにしました。そこで見たのは,本多-藤嶋効果の名前で知られている,酸化チタンに光を当てて水を分解し,クリーンエネルギーの水素を出すという研究だったのです。それは,最初に想像した化学とは全然違う研究で,そこで研究が楽しくなったのです。人生は不思議なもので,不本意で始めたことの中からいいものが見つかることがあります。いろいろと挫折している学生さんにはこんな経験をお話したりしています。

光エネルギーには比較にならない大きな力がある

宮坂:光に興味を持つようになったのは大学院に入ってからですが,早稲田大学時代に先輩から聞いた話が興味を持つきっかけだったのかもしれません。その時の卒論のテーマは,植物の光合成の一部をモデルにした,空気中の炭酸ガスの固定に関するものでした。ただ,それ自体には光は関わらず,高分子錯体の触媒で,不活性の炭酸ガスを活性化して有機物に変えるというものでした。
 ある時にゼミで植物の光合成は光を使うという話になり,そこで聞いたある大学院生の先輩の話がとても強烈な印象を残しました。先輩が言うには,エネルギーは熱とか電気,光,力エネルギーといろいろ形を変えていくが,特に日常生活で大切なエネルギー源は熱と電気と光である。ところが,熱エネルギーというのを例えば鉄砲の弾だと仮定すると,電気エネルギーというのは小さな爆弾に値すると。ところが光エネルギーというのは,その爆弾のさらに大きな,ナパーム弾のようなものになってくると言われたのです。鉄砲の弾をいくら打っても駄目なものは駄目で,それは熱エネルギーだ。電気エネルギーは結構な威力があるけれども,光エネルギーはまたそれとは比較にならない大きな力があるというのです。この話はとても印象に残りました。

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宮坂 力

宮坂 力(みやさか・つとむ)

1976年 早稲田大学理工学部応用化学科卒業 1978年 東京大学大学院工学系研究科工業化学修士課程修了 1980年~1981年 カナダ・ケベック大学大学院生物物理学科客員研究員 1981年 東京大学大学院工学系研究科合成化学博士課程修了 1981年 富士写真フイルム(株)入社,足柄研究所主任研究員を経て2001年より現在桐蔭横浜大学・大学院工学研究科教授
この間 2004年~2009年 ペクセル・テクノロジーズ(株)代表取締役(兼務)
2005年~2010年 東京大学大学院総合文化研究科客員教授(兼務)
2006年~2010年 桐蔭横浜大学 大学院工学研究科長
2010年~2013年 桐蔭横浜大学研究推進部長(兼任)
●研究分野
物理化学,電気化学,光電気化学,ナノ材料工学
●主な活動・受賞歴等
2002年 (財)化学技術戦略推進機構「アカデミアショーケース」 2004年 横浜市ベンチャービジネスプラン「アカデミー賞」 2005年 Scientific American 50 selection 2009年 グリーンサステナブルネットワーク文部科学大臣賞 2012年 日本写真学会学術賞

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