【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

いいものはいいと評価されるのが 一番難しい有限会社 高度技術研究所 代表取締役 清水 勲

特許の維持管理をするための会社からスタート

聞き手:高度技術研究所についてお教えください。

清水:私が平成8年にホログラムの自動作成機の特許を取りました。アメリカと日本で特許にしたのですが,その維持管理をするための会社が必要でした。私は公務員でしたので私の家内を代表にしました。それで鳴かず飛ばずでやってきましたが,その10年後,私がリタイアをしまして,それで,自分でもやっぱりちょっとやり残したという思いがあったものですから,電子基板の外観検査装置などを作って売り始めました。
 この装置は人さまと全く違ったやり方でした。レーザー光を当てて,画像の引き算を自動的にやらせる。そんな装置だったのですが,やはり老舗の所に割って入るというのは難しくて,なかなか売れませんでした。唯一,売れそうだった商談もありましたが,業界で日本企業が韓国勢に圧されてしまい,売り先企業も業界から撤退してだめになってしまいました。
 そのころちょうど,山中先生がiPS細胞を作られました。テレビの番組やニュースでiPS細胞が画面に出てきます。ですが,しばらくしたらいなくなって,また出てきてを繰り返します。なぜ画面にずっととどまっていないんだろうと考えました。そうして顕微鏡の視野が狭くて,深度も浅いんだと気付きました。それなら深くて広いものを作ればいいのではないかと考え,顕微鏡を作り始めました。それで,結局作ってみたらうまくいきまして,非常に小さなところまでよく見えまして,広い視野で見えて,深い所まで見えるのです。
 顕微鏡屋さんに行き,いろいろとディスカッションしようとしましたが,顕微鏡屋さんに「そんなことはうまくいくはずがない」と言われました。私が理論を説明しても「それはうまくいかないはずだ」と言うのです。でも,やってみるとうまくいくのです。それで「なぜうまくいくんだ」と彼らに問われて説明をすると,分かったような気分になるらしいのですが,1日たつと,彼らは先祖がえりをしてまた分からなくなるようなのです。
 最近のデータを見てみると,どうやら超解像度の顕微鏡になっています。200ナノメートル以下のものが見えると,光学顕微鏡の限界を超えると言われているらしいのですが,画像として80ナノメートルまで撮れました。
 さらに,カメラを変えてやると,多分40ナノメートルを見ることができます。貧乏なのでカメラを買うことができないので,カメラのデモ機を借りて実験しようとしています。超解像度顕微鏡ができ,今それを売ろうとしていますが,なかなか売れないです。
 キヤノンさんをはじめ,各社が8K以上の素子を持つカメラを発表しています。でも,使い道が分からないのだそうです。ぜひ使わせてもらいたいと言っているのですけれども。そのカメラを使うと,私どもの解像度がもっと上がります。
 この間,新技術を開発するために政府系研究機関に研究費の申請をしたところ,ヒヤリングまで行きましたが,結局採択されませんでした。
 茨城県のグローバルニッチトップ企業の製品としてお金を出して下さいと言っているのですが,「ニッチじゃなくてグローバルトップになるように頑張れ」と言われています。

いいものはいいと評価されるのが一番難しい

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けて光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

清水:光技術というのは,うまくやりますと本当にきれいです。私はできれば美しい技術を作りたいのです。力任せにやるというのは嫌いなのです。例えば,東京ドームの中でパチンコ玉が1個落ちている。観客もいるし人工芝も土もごみもある。その中で,パチンコ玉1個を識別する,そういう方法をつくりたいと思い,それで,今も追及しています。
 私の目指しているものは,絵で言うならば長谷川等伯の松林図です。あの絵のような技術を作りたい。長谷川等伯と並び称される狩野派,狩野永徳の絵もすばらしいですが,私は松林図の深い静謐さが素晴らしいと思います。いまの私の絵は物を詰め込み過ぎて,それで汚くなっていて何とも言えないのですが,あれぐらい美しい技術ができると面白いと思っています。Elegant simplicityが理想です。テーマはいっぱいありますが,なかなかお金と知恵が回りません。
 与謝蕪村の句のような壮大なイメージもしかりで,やはりエンジニアリングにも,そんな美観がないと駄目だと思っています。
 光の反射は,見えている物も物質に当たって吸収されて同じ波長の光が発光するという,本当はそんなことなんです。ただ単に反射しているわけじゃなくて吸収発光がおきているわけです。だから,そんな所を見てもものすごく面白いし,それからもちろん色があります。それから位相があって波があります。それから偏光もあります。どれも何とも言えず面白いですよね。荒城の月の「昔の光いま何処」,光にはロマンがあります。
 光をやる人というのは,幸せじゃないかと思います。私どもは今,非常に高精細なカメラで画像を撮っていますが,これはものすごいデータ量になります。これをデジタルで処理するのは大変なので,光アナログで一遍に処理できないかと思っています。照射する光も,画像もいっぺんに光画像処理,光アナログ処理ができないかと。そうすると楽になりますよね。頭のいい人が,そんなことをやってくれるだろうと思っているのですけれども。
 そんなことで,田舎にいて,年を取って,鏡で自分の顔を見ると,あらまあ。でも,若い気でいるのです。年をとっても楽しい技術はできます。今でもやはりアメリカやヨーロッパに負けたくないのです。実際には勝つとか負けるとかではなく,やはりいいものはいいというふうにきちんと評価されたい。それが一番難しいですが。
 こういうことがうまくいき始めると,どんどん日本の社会も良くなるし,暮らしも良くなると思います。いまの日本には,伯楽がいないんですよね。昔は多分ゆとりがあったと思います。そんなみんなあくせくする必要はないんじゃないか。いい音楽を聞きながら,いい酒でも飲みながらゆったりとやりたいですよね。
清水 勲

清水 勲(しみず・いさお)

1940年 神戸市生まれ,島根県育ち(戦争のため母方の故郷に疎開) 1966年 茨城大学 工学部 精密工学科卒 1966年 茨城工業高等専門学校 機械工学科 助手 1974年 茨城工業高等専門学校 機械工学科 講師 1977年 茨城工業高等専門学校機械工学科 助教授 1983年 工学博士(東京工業大学) 1988年 茨城工業高等専門学校 機械システム工学科 教授 2004年 茨城工業高等専門学校 定年退官 名誉教授 2004年 (有)高度技術研究所 技術統括取締役 2016年 (有)高度技術研究所 代表取締役
●研究分野
応用物理学,工学基礎,応用光学,量子光工学,電気電子工学,計測工学
●主な活動・受賞歴等
1977年 日本機械学会,燃焼に関するレーザ計測分科会 初代幹事 2001年 NPO法人「なかなかワーク」設立 代表幹事 2002年 ひたちなか圏新産業推進委員長 2003年「新エネルギーフォーラム」創立 1988年 エアロゾル研究協議会第1回会長賞 1995年 日本空気清浄協会会長奨励賞 1997年 日本空気清浄協会会長奨励賞 2001年 日本空気清浄協会会長奨励賞
●(有)高度技術研究所について
(有)高度技術研究所(RIAT)は,光計測技術を基盤とした研究開発型の企業。独創的で優美・有用な技術・システムの開発,人々を幸せにする技術・システムの創生を目標としている。iPS細胞検査に使われる大視野レーザ位相差顕微鏡など,独創的な技術開発を行っている。
(有)高度技術研究所webサイト http://www.riat.co.jp/

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