【重要】O plus E 本誌価格改定のお知らせ

光学は中核になる人間の技術力をどう上げるかが鍵株式会社ユーカリ光学研究所 代表取締役 油 大作

師匠に恵まれていたことが,私にとって最大のイベント

聞き手:油様には10年前(O plus E 2005年9月号)に一度ご登壇いただいております。その時と重複してしまうとは思いますが,現在の油様のことをご紹介するためにも改めていろいろとお話をお伺いしたいと思います。まずは,光学の分野へと進まれたきっかけからお話しいただけますでしょうか。

:私は金沢大学の理学部物理学科の出身です。それで,金沢大学の物理というのは,光学に重点を置いているわけではないですが,そのわりに光学に関連した方が多いです。それで,何となく先輩の話を垣間見たり聞いたりしているうちに,自然の成り行きで光学の畑に入っていきました。大学の集中講義で「幾何光学概論」か何かの講義を聞いたのが,光学へ足を踏み込んだ最初だったろうとは思いますね。講義は,当時の頂点だった筑波大学名誉教授の故三宅和夫先生でした。
 昭和34年の大学卒業のときは,鍋底景気で低迷していたところから少し良くなってくるころだったのです。ニコンとかキヤノンでは,大卒の技術屋の採用はゼロでした。三協精機とヤシカが双璧で8ミリカメラの事業に進出するのに急きょ人材募集していて,おかげで入社が決まりました。北海道から鹿児島まで全国から集めたので多士済々でした。会社は山の中で,今と違って交通の便も良くなければ,携帯電話もないときですから,まるっきり学生の合宿みたいな感じで学生時代の延長のようでしたね。遊ぶ所などないですから,仕事が終わると皆で雑誌会をやろうとか意気軒高でしたね。自然発生的に物理屋だけで集まって,新しい文献を皆で読んだりしていました。
 私が入社してまだ1?2年のとき,ニコンの芦田静馬先生が,定年後,三協精機で私の師匠としてお迎えすることになり,私は芦田先生に学ぶチャンスをいただきました。同じ部屋の隣に小さい机を並べて,手を取って教えてくれるわけではなくて,先生はゴソゴソと手計算をされているわけです。先生の計算は,まだ手回しの機械的なタイガー計算機でやっていましてね。私もその隣でチラチラと見ながら,先生がちょっとでも席を外されると,一生懸命にむさぼるように取るというものでしたね。
 ですから,具体的に光学設計技術を教えてもらったわけではなく,雑談を非常によくしていましたね。先生もリタイアされていますから,拘束もなかったし気楽だったのでしょうね。昔話をよくしていただきました。非常にいろんな縁がありまして,芦田先生は京大の物理でしたが,私が卒業したときの物理の主任教授と同級生だったのです。そういう意味では,親近感があって,お昼になると,銀座通りのいろんな高級レストランでお昼をごちそうになったいきさつがありました。
 そういうときに,「ものを書くときは,こうでなければいけない」とか,「雑誌に投稿するレビュー的なものは気楽に書いてもいいけれども,単行本は,相当に推敲を重ねるということが必要だよ」と話されました。
 光学設計の世界で,戦前に日本語で書かれたレンズ設計の教科書は,この芦田先生の『レンズの設計と測定』1冊しかなかったのですね。戦時中から戦後にかけてレンズ設計が急速に広まりましたが,その人たちの教科書は,全部その1冊を買い求めて勉強したということがありましてね。
 私が恵まれているのは,三協精機という会社も私も駆け出しでしたが,時代は,国内の通産の法律で「光学技術研究組合法」が決まって組合ができたばかりのときでした。学会と業界から代表が集まって,「今後どう光学技術を普及発展させようか」という話し合いがあって,そこに参加するチャンスをいただいたのです。集まったのは,教科書に出ているような,すごい名前の先生方ばかりで,私はもちろん一番下っ端でした。座長は久保田広先生という東大の生産技術研究所の先生がやっていらっしゃいましたが,久保田先生は,三宅先生のもうひと回り上で,当時,神様みたいな先生でした。

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油大作(あぶら・だいさく)

油大作(あぶら・だいさく)

1936年 石川県出身
1959年 金沢大学理学部物理学科卒業
1959年 (株)三協精機製作所入社
1964年 (株)保谷硝子入社
1967年 東京光学機械(株)入社
1980年 (株)ユーカリ光学研究所を設立

●(株)ユーカリ光学研究所について
(株)ユーカリ光学研究所は1980年創業。光学機器の試作開発会社として,35年の長きにわたり,カメラ,望遠鏡,顕微鏡,赤外線,紫外線,可視光線と,用途や大きさの大小にかかわらず,さまざまな試作・開発に携わった経験をいかし,専業メーカにはない独自のノウハウを保有している。本質は光学専門のコンサルティングとしているが,商品開発から設計,試作まで自社一貫作業が可能であり,凸レンズ1枚から衛星搭載用光学装置まで対応可能な「受託開発」をはじめ,「試作サービス」「測定サービス」「設計サービス」のほか光学技術,開発コンサルティングや光学技術者受託教育も可能な「出張セミナー」など多彩なサービスを提供している。
webサイト http://yucaly.com/

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