【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

日本の次世代のため 日本の光学産業に何らかの貢献をしていきたいチームオプト株式会社 代表取締役社長 槌田 博文

もんもんとしている時間がもったいない

聞き手:研究・開発プロセスにおいて,自信を喪失されたり試行錯誤して苦悩された苦いご経験がありましたら,ぜひそのエピソードをお聞かせください。

槌田:そうですね。一つ目は先ほども申し上げた研究部署に異動になったことでしょうか。カメラの開発をしたくて入ったのに,何かわけのわからない研究をしなければいけないと。このときは,どうせやるなら…という気持ちの切り替えでしたね。どうせやるならレンズ設計の革命をやってやる,そういうふうに気持ちを切り替えたら,まあ元気にできたわけです。
 その次は,研究テーマに10年かけて,そのテーマが中止になったときです。本当にどうしようかと思いました。客観的に考えれば,コストが高いとかいろいろなことで中止はわかるのです。お前から中止を提案するべきだろうとも言われるわけです。でも私は違うと思うのです。「やると決めて始めたことは何としてでもそれを成就するまであきらめない」というのが自分の信念で,中止するという選択肢はなかったのです。それでとことんやってみて,10年がたち,どちらかというとタオルを投げられた感じです。
 自分からやめるという提案はしたくなかった。結局テーマとしてはお取りつぶしになったので落ち込みました。それにかけていたので,そのとき初めて会社を辞めようとさえ思いました。ただ,学会レベルではいろいろ新しい知見も得られ,論文発表や国際会議に出席したりしていましたので,テーマが中止になったタイミングで博士論文にまとめたのです。会社から,学位を取得してもよいということになり,ちょっと元気を取り戻しました。もしだめだといわれていたら,本当に辞めていたかもしれません。そうこうしているうちにグループリーダーになり,オリンパスの光学技術を強いものにしたいという新しい目標をつくって切り替えていった感じです。
 その切り替えができたのもいっしょに働いていた部下の存在が大きかったと思います。本当に優秀な部下ばかりでした。オリンパスの光学技術を強いものにしたい。リーダーになり「よし,みんなを引っ張っていってやる」と奮起した感じです。
 ですが,研究は本当に大変でした。その時点で実現していないことをするわけで,大体うまくいかない。開発とは違い,研究はうまくいくかどうかわからないけどチャレンジしろと言われているわけです。実際うまくいくことは多くありません。うまくいかないと,嘘つきだとか言われることもあり,それがつらかったです。グループリーダーや部長になってからは,部下には同じ思いをさせたくないと思いました。自分が傘になって面倒くさいことは引き受けるから,君たちは中身をしっかりやってくれと考えていました。
 気持ちを切り替えて前に進む,この考えは自身の経験や,セミナーで講師の先生から聞いてなるほどと思ったりということから,だんだんとできてきたのですが,結局もんもんとしている時間がもったいないということです。やはり不安になってくると,悪いシチュエーションを考えたりして何も手につかなくてもんもんとしてしまいます。何かが変わるまでただ待ってみたり。でもあとから考えると,あの時間がもったいなかったなと思うのです。それならば前向きにトライした方が,その分前に進むので,だったら前向きな気持ちでいた方がいいだろうと考えるようになりました。

平板レンズ1枚からなる撮像レンズ

平板レンズ1枚からなる撮像レンズの断面図


 それと,これも経験からきていますが,50点でもいいと考えるようにしました。研究テーマはうまくいかないことが多く,いつもぎりぎりまでがんばっても,自分としては50点くらいなのです。でも逆に考えたら50点とれたじゃないか。半分できなかったかもしれないけど,半分はできているのだから,よしとしよう。50点でよしと考えるようになったら,まあ少し気が楽になりました。だから部下にもよく50点でいいのだ,これでまた次に50点がとれれば目標設定自体が上がっているから50点のレベルがどんどん上がっていくことになるだろうと言いました。100点にこだわりすぎると,どうしてもギャップが気になって,逆にチャレンジできなくなってしまいます。リスクを覚悟で高い目標にチャレンジしているのだから,いつもいつも100点ばかりとれるわけもないだろう。50点だったとしても,それでいいじゃないかと励ましていました。

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槌田 博文(つちだひろふみ)

槌田 博文(つちだひろふみ)

1958年 岡山県生まれ 1984年 大阪大学工学研究科応用物理学専攻修士修了 1984年 オリンパス光学工業(株)(現オリンパス(株))入社 2001年 博士号取得(工学,大阪大学,論文博士) 2014年 オリンパス(株)退社 2012年 岡山大学非常勤講師 2015年 チームオプト(株)設立,代表取締役社長に就任
●研究分野
レンズ設計,光学設計理論
●主な受賞歴等
2007?2011年 日本光学会光学設計研究グループ代表 2008?2009年 応用物理学会理事 2000年 光設計研究グループ光設計特別賞 2008年 文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)
●チームオプト株式会社について
チームオプト株式会社は日本の光学産業発展に貢献したいとの理念を掲げ,2015年10月に設立した光学技術コンサルタント会社。光学メーカーや研究機関等で光学技術についての豊富な経験を積んだメンバーを集め,光学設計(カメラ,顕微鏡,光ピックアップ,照明用レンズ,ズームレンズ,回折レンズ等)はもちろん,光学理論,光学測定評価,光学ソフトウエア,先端光学技術など多岐にわたるコンサルティングや教育を行う。URL:http://www.team-opt.co.jp/

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