【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

基礎を把握し,試験をきっちりやり 不具合を完璧に解決すれば,必ずうまくいく宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 所長 常田 佐久

光学技術の発達と,生命の起源の理解はつながっている

聞き手:最後に,光学分野において活躍を目指す若手研究者,技術者に向けて,魅力をお教えいただきたいなと。

常田:光学は極めて大事です。光学の重要性が,大学教育で十分認識されていないんじゃないかという危機感があります。というのは,フランスの光学の伝統はすごいですよね。光学学校があって,光学エンジニアを専属で養成しているのです。フランス企業と仕事をしてみると,光学の伝統を感じさせるときがあります。わが国のこの辺の弱さが気になりますね。なぜ光学をやらなきゃいけないかというと,物理として古典的な光学からどんどん発展してきて,それ自身大事だというのもあります。天文学は,応用光学の一分野といってもいいくらいその恩恵にあずかっています。天文学で惑星を見つける装置,コロナグラフの性能がどんどん上がっているのを見るにつけ,光学は19世紀の学問ではなくて21世紀の学問であり,まだまだ発展する学問であるというのが実感です。光学の発展を通じてしか,われわれは新しい観測をすることはできません。光学技術の発達と,われわれが生命の起源を理解することというのは,一対一で結びついているのです。物理学や光学と生命の起源の探求は,別世界に見えますが,私の中ではこの2つは深く結びついています。だから,日本の光学研究・光学技術の層の厚さが宇宙開発に生きるように,ぜひ若い人がこの道に進んでもらいたいと思っています。いったんその面白さに目覚めると虜になるでしょう。私の周りから,そういう院生が何人も巣立ちました。別に大学の先生にならなくても,企業にいても,とても面白いことができます。「ひので」の望遠鏡の開発には,企業の優れたエンジニア達の献身的活躍が光っていました。もしかしたら企業にいた方が面白いぐらいかもしれないですね。
 宇宙望遠鏡と光学が直結するコロナグラフだけでなく,日本の重力波望遠鏡「KAGRA」も,その基本は高度な光学技術です,まさに,その基礎はマイケルソン干渉計なのですから。学術の発展と光学は不可分に結びついており,光学をバカにしたら研究はできません。
 私は光学の専門家ではないので,光学設計ができるわけではありません。しかし,物理的・直感的に,重要なところで常に光学と寄り添ってきた人生で,I love 光学です。自分の関係したミッションも,すべて基本に光学が入っているので,その中で実践的に学び,光学エンジニアと会話できるまでになってきました。私だけでなく,科学の研究をする人は,何らかの形で光学の世話になっているはずで,この分野の重要性が理解され,『O plus E』がより読まれるようになることを祈っています。『O plus E』を久し振りに拝見し,科学雑誌・専門誌が消えていく中で,こんなに発展しているのはすごくうれしいです。
常田 佐久(つねた・さく)

常田 佐久(つねた・さく)

1954年 東京都生まれ 1978年 東京大学理学部天文学科卒業 1983年 東京大学大学院理学系研究科天文学専門課程博士課程修了 1983年 日本学術振興会研究員 1986年 東京大学 助手 1992年 東京大学 助教授 1996年 国立天文台 教授 2013年 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所長
●研究分野 天文学
●主な活動・受賞歴等
1995年 第12回井上学術賞受賞
2010年 第14回林忠四郎賞受賞

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