【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

基礎を把握し,試験をきっちりやり 不具合を完璧に解決すれば,必ずうまくいく宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 所長 常田 佐久

成果を示して国民の支持を得るのも,研究者の役割

聞き手:やはり壁は予算でしょうか。

常田:欧米の宇宙機関に比べて,たしかに日本は予算が少ないですが,だからといって,「お金がないからできません」とは言いたくないですね。この研究所の予算を2倍にしたからといって,直ちに今言ったようなことがすぐできるかというと,研究者の層の厚みとか,研究開発の長年の積み重ねも大事です。お金は,one of the factors だと思います。
 ただ,いろいろなプロジェクトやっている先生方は,予算でたいへんご苦労されている実情は,もちろんあるわけです。10~20%の予算の増額があれば,日本の宇宙科学に大きな飛躍をもたらすことが可能です。ここで大事なことは,成果を出して国民の皆さんに,より宇宙科学を支持していただくことだと思っています。「はやぶさ2」が今年の12月に地球スイングバイにより小惑星「リュウグウ(1999 JU3)」に向かいます。2018年には小惑星に到着し,現地を詳細偵察したあと,着陸地点を決めてサンプルを取得し,2020年に地球に帰還予定です。大航海に何が待ち受けているか分からない状態でハードルが高いですが,これらを,確実にやることです。それなら,あいつらにもう少し投資しようか,となるでしょう。成果を示して支持をしてもらう。それから,日本国の状況を考えたときに,若い人たちを激励するひとつのやり方として,われわれ宇宙科学の研究者の役割というものを,特に最近はひしひしと感じています。新しいことを知るため,衛星や探査機の性能を向上させていくわけですが,このために先生方やJAXA職員,メーカーのエンジニアの方々は血みどろの努力をされています。しかし,国民目線からは,これは当たり前のことです。その中で,日本はこういうこともやっているんだっていうことを国民に誇らしく思ってもらえるように,積極的に説明責任を果たせていかねばと感じます。

聞き手:林台長(林正彦国立天文台台長:「O plus E 9月号」登壇)も,成果をどんどん発表して,国民の人に興味というか,ワクワクしてもらうことが一番大切だとおっしゃっていらっしゃいました。ぜひ成果を上げて,もっとワクワクさせていただきたいと思います。

常田:ただ,この世界はハイリスクハイリターンの面はどうしても残るといわざるを得ません。国立天文台の先端観測装置も大変な努力をされて完成しているのですが,宇宙開発の場合は,見えないところのわれわれの努力というのは非常にあるけど,一段としんどい場合が潜在的にありえます。しかし,先ほどのべたような指導原理を持っていれば,成功していくと信じています。 <次ページへ続く>
常田 佐久(つねた・さく)

常田 佐久(つねた・さく)

1954年 東京都生まれ 1978年 東京大学理学部天文学科卒業 1983年 東京大学大学院理学系研究科天文学専門課程博士課程修了 1983年 日本学術振興会研究員 1986年 東京大学 助手 1992年 東京大学 助教授 1996年 国立天文台 教授 2013年 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所長
●研究分野 天文学
●主な活動・受賞歴等
1995年 第12回井上学術賞受賞
2010年 第14回林忠四郎賞受賞

私の発言 新着もっと見る

本誌にて好評連載中

私の発言もっと見る

一枚の写真もっと見る