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光は誰をも惹きつける 楽しそう! 面白そう! を広げてみるサイバネットシステム(株) 執行役員 西郡 恵美子

最先端の技術で人とコミュニケーションする仕事がしたかった

聞き手:西郡さまが光学を志したきっかけやサイバネットシステム社に入社された経緯などをお教えください。

西郡:光学に関わるようになったのは,当社に入社したのがきっかけです。大学での専門は,数学でした。何かのルールに従って考えていくことが好きで,その中でも数学が好きだったので理学部数学科に進みました。
 私がサイバネットシステムに入社したのは91年で,バブルの残り香がまだぎりぎりありましたので,数学科の同級生たちは,教師に加え,銀行や大手企業に入った人も多かったです。企業の場合,業界は違えど,SEになる人が多かったですね。私は何となくSEは違うかなと感じていましたので,サイバネットシステムを選びました。理系の最先端に近い分野で働きたい,けれども自らが研究主体でなく人と関わる仕事がしたい,できれば海外とも関連づいた仕事がいいという希望と合致したのが大きな理由です。
 当時は社員100名足らずでしたし,BtoB企業で一般的知名度はとても低く親戚からは反対や不安を口にされましたが,当時のリクルーターの女性が非常に魅力的な方だったことが,私の背中を大きく押してくれました。その方は本当に実力があり,今はご自身でヘッドハンティングや,社員教育を提案する会社を興されています。
 入社後,光学グループに配属され,アプリケーションエンジニアになりました。それが光学と関わるきっかけです。光学については教養の授業で1コマ1年受けた程度でしたので,書籍から,そして先輩から指導を受けつつ,学んだことをソフトウエアで実現したり試してみることで理解を深めていきました。入社時には日本の企業「オプト」が開発したOPTASも販売・サポートしていたのを懐かしく思い出します。
聞き手:日本の大手光学メーカーは,ほぼすべてCODE Vのユーザーだとお聞きしています。日本で開発された市販の光学設計ソフトウエアは存在していないのでしょうか?
魚眼レンズイメージシミュレーション例(CODE V)

魚眼レンズイメージシミュレーション例(CODE V)

西郡:高度な技術伝承のため,また,独自の技術的強みを実装するために,光学設計ソフトウエアを社内用として各社が開発されているのは聞いています。しかし,日本国内で開発されて市販されているものは,今はないのではないでしょうか。先ほどお話ししたオプトのOPTASは日本で開発されたソフトウエアでしたが。
CODE Vの各種評価

CODE Vの各種評価

 ただ,これではいかんと,日本の技術力を絶やさないという意味で,日本発信での新しい光学設計プログラムを作っていこうという動きがあると聞いています。

聞き手:ユーザー側と開発のSynopsys社(旧ORA)での感覚のずれや違いを感じたりすることはあるのでしょうか?

西郡:お客さまの立場からも答えないといけないことですので,断定はできませんが,私たちとしては,さほど大きくずれていることはないだろうと考えています。なぜなら開発元が日本のお客さまには特に,とても良い傾聴姿勢をもっているからです。
 とは言え,お客さまが期待する要望の詳細情報は,すべてを我々に開示することが難しい場合も多く,そうなると推測を含めた理解と伝達になってしまうということもありえます。また,世界的な汎用標準製品ですので,各国の技術者からの要望が集まるという点から,開発の順位や内容が日本のお客さまの要望に100%合致するわけではないのは事実かもしれません。
RSoftデバイスツールのシミュレーション例

RSoftデバイスツールのシミュレーション例

聞き手:CODE VやLightTools,またRSoftをアカデミックプライスで大学に提供されていますが,狙いをお聞かせください。
LightToolsを使ったミキシングロッドの例

LightToolsを使ったミキシングロッドの例

西郡:学生時代からこうしたソフトウェアに触れてもらい,社会人になってもファンでいてもらうことを目指しています。欧米でも同様の仕組みはあり,CODE VやLightTools,RSoft製品などを使いこなして設計ができることを1つの売りにして光学設計企業に入社するということもあるようです。
CODE VとのRSoftシステムツールの協調解析例反射屈折レンズを用いたファイバーからフォトディテクタへの結合

CODE VとのRSoftシステムツールの協調解析例
反射屈折レンズを用いたファイバーからフォトディテクタへの結合

 我々も大学や学生の支援は重要と位置付けています。例えば,昨年開催した宇都宮大学とアリゾナ大学共催の光学設計測定ショートコースでは,当社の秋葉原本社のセミナールームと商談室を3日間貸し切りで使っていただきました。
ソーラー発電塔:太陽の軌道に合わせ各々のへリオスタットミラーを傾け最も効率よい集光を実現(LightTools)

ソーラー発電塔:
太陽の軌道に合わせ各々のへリオスタットミラーを傾け最も効率よい集光を実現
(LightTools)

大学関係者を含め一般のお客さまからも「次回もサイバネットさんで開催してほしい」という声もいただいており,次回の開催についても前向きに検討中です。  著名な先生から直接授業を受けたり,先生と直接お話しできるようなイベントは,将来の光学業界を盛り上げていく学生や研究者の方々にとって必要なことだと考えています。

聞き手:買収によってORA社はSynopsys社の傘下になりましたが何か影響はあるのでしょうか。

西郡:私は悪くない選択だったと考えています。優秀なプログラマー採用もSyonpsys社の規模で行う方がスムーズですし,ソリューションを拡大し今後さらに発展させるには良かったと考えています。
 もちろん,最初聞いた時は,正直なところいったいどうなることやら,と心配しました。Synopsys社はEDA(Electronic Design Automation)業界でワールドワイドのリーディングカンパニーですし,小さな小さな光学アプリケーション開発会社のORA社が今後どのようになるのだろう?と不安でした。しかし,まずはお客さまに迷惑をかけない方向で動こうと,今後の方向性や疑問についてORAの人たちとしっかり議論しました。
 ORA自体もSynopsysにその技術力を高く評価されていましたし,サポート技術力の高さとお客さまとの良好な関係にあるサイバネットシステムの特異性をSynopsysも深く理解してくれました。ORA社と当社との信頼関係が非常に深いものだったという点が奏功したと考えています。
LucidDriveシミュレーション例LucidShapeで設計した配光の効果を確認AFSやマルチビューモニターも可能

LucidDriveシミュレーション例
LucidShapeで設計した配光の効果を確認
AFSやマルチビューモニターも可能

いずれにしても今考えると,とてもスムーズなトランジッションだったと思います。
 その良い効果として,自社(旧ORA社) 開発のCODE V, LightToolsに加え,RSoft社を2012年に買収してフォトニクス業界にも幅を広げ,2014 年にはLucidShape, LucidDriveの開発元であるBrandenburg社を買収し,車業界へのソリューションを強化しています。これは,ORA単体だとなかなか難しかったことだろうと理解しています。 <次ページへ続く>
西郡恵美子(にしごおり・えみこ)

西郡恵美子(にしごおり・えみこ)

1991年 奈良女子大学 理学部 数学科卒
1991年 サイバネットシステム株式会社入社
2013年 サイバネットシステム株式会社 執行役員
●サイバネットシステム株式会社について
サイバネットシステム株式会社は,科学技術計算分野,特にCAE(Computer Aided Engineering)関連の多岐にわたる先端的なソフトウエアソリューションサービスを展開しており,電気機器,輸送用機器,機械,精密機器,医療,教育・研究機関などさまざまな業種及び適用分野におけるソフトウエア,教育サービス,技術サポート,コンサルティング等を提供している。光学設計,照明解析CAEでは,CODE V, LightTools, RSoft, LucidShapeを取り扱っている。
URL:http://www.cybernet.co.jp/

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