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新しいものを持ってきてお客さんに知らしめるというのが,私の仕事オーテックス(株) 福井 博

「日本で最初に紹介した」というのが面白い

福井:会社が会社を買収するうちに,技術がどんどん抜けてしまって,もともとあった技術がなくなってしまったということが起きるのです。レーザーにしろ,オプティクスにしろ,最終的にはさじ加減なのです。そのさじ加減の分かる人がいなくなると,ものが駄目になってきます。アメリカは,会社があって,ある程度大きくなると「この会社を売ってしまえ」というのが結構います。「私は引退する」とか,「他の仕事をやりたいので,売ってしまえ」という会社があります。これを売ったときに買収した会社が技術をそのまま受け継ぐかというと,ほとんど受け継いでいないのが現実です。だから,「ここは,すごくいいものをつくっていたな」という会社がこちらに買収されたら,「ここのものは,ぼろぼろだ」というものばかりです。ほとんどがそのような状態ですから不思議ですね。
低価格フェムト秒レーザー

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 レーザー関連技術というのは人で持っているようなものです。マニュアル化して受け継げる技術でまだないと思われます。実は,それがレーザーだとかオプティクスなのです。本当に面白いものですね。鍵をにぎる方がどこかへ行ってしまったとか亡くなられたりすると,その会社のその技術はもう終わりなのです。

聞き手:新しい技術が受け入れられなかったときは,自分を信じて,頑張って説得するということでしょうか。

福井:はい。「石の上にも何年」です。その技術が確かに正しいものであれば,それを続けていくだけです。理屈で説明していけば,大体分かってくれるはずです。理論的に破綻するとそれはできないですけれども,理屈としてきちんとロジカルに説明できれば最終的にはお客さんも納得してくれます。ただ,日本はそれが非常に時間がかかります。(笑)
 私はそのことに耐えるというより,それを皆さんに知らしめるということが生業なのです。それは研究をやっている方も「私のやっている研究を世に知らしめる」ということと同じだと思います。
 私は運がいいのでしょうね。大きくつまずいたというのはないですね。別に苦しくはないけれども自分の思っている通りにいかないというのは,日本に新しい技術を紹介したときに,その技術を受け入れてくれない,分かってくれないところです。自分の知っているところは知っているけれども,それ以外は知らないという方が多過ぎます。20年ほど前,多層膜で入射角依存性のないミラーを始めたときは,それが過去に存在しなかった製品でしたので,売れるまで相当の年月がかかりました。また現在,販売しているIBSコーティングも,既に,8年になりますが苦戦中です。また,オーテックスで開発した新材料を使用した,エポキシ樹脂を可視光硬化させるという世界で初めての技術も遠い道のりになると思います。しかし,それを困難だとか苦労だとかいうふうに感じてはいないのです。「なんで分かってくれないんだ。頭が堅過ぎるんではないか」とは思っていますけれども。(笑)
 それが今までの仕事です。過去は全部それでした。先ほども言いましたが,自分一人で全部をやらざるを得なかったのです。(笑)ですから,「日本で最初に,どこどこのものを紹介した」というのは,本当に随分あります。それが面白いのです。でも,そんなものは,よその人が知らなくても,自分の心の中でほくそ笑んでいればいいです。(笑)それを四十何年間やれるだけ,レーザーはとにかく面白いです。日に日に新しい物が出てきていますし。裾野が非常に広がりましたので,昔に比べるともっと売れているし,右を向いても左を向いても興味のあることばかりではないですか。 <次ページへ続く>
福井 博(ふくい・ひろし)

福井 博(ふくい・ひろし)

東京都出身。
1987年にオーテックス株式会社設立。
オーテックス株式会社はレーザ機器や電子機器などの輸入・販売を行っている。
1990年にテクニカルセンター開設し,2002年UV硬化エポキシ材料特許取得。
2008年には可視光硬化エポキシ材料発売するなど,独自の商品の開発・販売も行っている。
URL http://www.autex-inc.co.jp/index.html

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