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着想力が豊かで,実行力が速く失敗を財産とできる前向きな志向の人材を育んでほしいナノサイエンスラボ 代表 門田 和也

実行力が速くて,着想力がいい,海外思考を身につけてほしい

聞き手:日本の半導体メーカーは韓国などのアジア勢に敗れて行きましたが,それはなぜなのでしょうか?

門田:そもそも,統一理解,言いかえれば正しい分析と認識がなされていないことが問題です。さまざまな要因があると思いますが,その一つは,技術者の力と経営者の能力の低下です。そして,生産技術が停滞したことで価格競争になりました。さらに,重要な技術で米国に逆転されたことや,プロセス・デバイスの開発者にコスト意識が希薄だったことが根本原因です。はっきり言えることは,「経営と営業ミス」です。  前述した日米半導体協定の影響といったボディブローもありますが,その後,1990年代に入り,脱メモリー戦略を立ててシステムオンチップ(SoC),ロジックで行こうとしたところに,経営的,営業的な大きなギャップが生じました。合わせて,アジア勢が最先端工場に巨大投資を打ち,ファウンドリービジネスを開始したことを,冷ややかに侮っていました。
 SoCは,少量多品種生産であり,メモリーとは異なる生産体系が必要でした。複雑な設計開発(含むソフト)も,人材を要する割には,売上額が少なく,ペイしなくて,製品ライフが短いのです。また,マイコンも,多機能で多品種あるが,いずれも価格が極めて低く,高度な機能を有するのに,価格に反映できない負の構図(黒字にできないビジネス)に陥りました。家電量販店や車載用途に縛られ,同一市場で他社との過当競争でもありました。
 11社あった日本の半導体各社は,お荷物になる半導体部門を次々に切り離し,一部は,合併もしましたが,成功しませんでした。2,3社が寄れば,シナジー効果で強くなるはず・・・,とは誤った経営判断でした。3社の文化(社風,設計,プロセス,品質)は,どれかに1本化するならともかく,3本を並行していたのでは,合併,事業統合の効果は出ず,逆効果のみの日本式経営でした。
 若いころに一度染まったDNA(実績を積んだ経験)は,一朝一夕には変えられません。上長や,担当分野が変わったくらいでは,他のカラーに変えられないのが,良くも悪くも日本人の気質です。大体みんな二十歳前後で会社に入って,大学の経験なんて役に立たないから,企業であらためて教育を受けて,実際の設計とかいろんなことをやるわけでしょう。それで飯が食えてるわけだから,それで俺は将来生きて行くんだってみんな思ってるわけじゃないですか。それをある日突然,別の会社のやつと一緒になったところで,設計が違えば,自分の方がいいって言うに決まってるじゃないですか。
 こうして,最先端の工場投資ができなくなったので,設計部門を1軍として残し,生産部門は人員整理をするようになって久しいですが,モノ造りを台湾などのファウンドリーに委託すると,見かけ上,金銭的には楽になるが,それは,経営錯覚です。ファブの膨大なノウハウ(フィードバック)が入ってこない設計部門は,設計能力が退化し,やがて,競争力を失い,2軍,3軍・・・と,破綻の坂道を転がり下ることになります。
 残された2020年までに,抜本的な戦略を打つべきです。栄枯盛衰はこの世の常であり,あのインテルも,アップル,クアルコムには引き離されました。狙うべき最終製品(応用システム)は,医療,バイオ,エネルギー,社会インフラ,農林水産業などの分野で,日本の力が再び発揮できるところへ重点戦略をシフトすべきです。
 私が言いたいのは,着想力が豊かで,実行力が速く,失敗≒財産と前向き志向の人材を育むべきです。育むためには,海外に目を向けてほしいということです。日本人の着想力じゃなくて,海外の,欧米の,と言った方がいいかもしれませんが,そういう着想力を持ってほしいです。そのためには海外に1年か2年出掛けて仕事するのが一番です。出張で1週間や2週間じゃなくて,現地に住んで,現地の人と設計なりものづくりなりいろんなことをやって,それも,なるべく若い20代,30代前半ぐらいのうちに,そういう体験をしてほしいです。そうすると,いかに彼らの着想力が豊かで,それをすごい速さで物にしているかがわかります。それをしないと自分たちの給料は上がらない社会構造なのですよ,彼らは。日本みたいに黙っていても年功序列で上がるっていう世界ではないから,実行力が速いです。着想力がいいのは,そういう社会的な背景があるからだと思います。海外思考が身につきます。そして,日本にまた戻ってきて,そこで養った着想力を使って新しい技術とか製品を作って行くようにしないといけません。失敗を失敗ではなくて財産だと考える,そういう文化なんですね。失敗は許さないという日本の文化はそもそも間違っていて,ボーナスを減らすぞとか何とか言うのは逆だと私は思います。失敗したら「おお,よくやった,ボーナスを増やしてやる」ぐらいのことを言わないと,その人は意気消沈しちゃって二度とやらないわけですよ。今のあなたの失敗は生きないかもしれないけど,次かその次の段階で必ず生きるんだから,それに向かってボーナスを増やしてあげるからやってよねというのが,欧米のマネジメントなのですよ。
 それと反対の言葉が,まさに選択と集中で,みんなできないから,これでやって,もうこれがだめならだめみたいな感じでいってしまうわけですね。それは,まさにリスクヘッジをしていないということなのです。  もちろん経営者は今月,来月の売り上げとか収益についてそういう言葉を言うかもしれないけど,それは次の経営に向かって何もやってないわけですよ。だから次の経営を,2年か3年後の経営で株が上がるかどうか知らないけど,それを否定しないで「君の失敗は生きるんだからやってよね」って激励してあげるのがいいマネジメントだと思います。株主総会でも,「今回は失敗して申し訳ありません,だけどこの経験を生かして若いやつをそこへ当てはめますから,ぜひ株主の方はご理解ください」と言えばいいと思いますね。そういうことを言うのが社長の役目で,とにかく黒字にしました,何とか許してくださいみたいなのは,それは経営じゃないと私は思いますね(笑)。 <次ページへ続く>
門田 和也(かどた・かずや)

門田 和也(かどた・かずや)

1943年 神奈川県生まれ 1972年 東京工業大学 大学院理工学研究科 卒業 工学博士 1974年 日立製作所入社 2003年 定年退職後,産総研,東北大学を経て,ナノサイエンスラボ代表
●研究分野
半導体設計
●主な活動・受賞歴等
半導体メモリ開発(特に微細加工技術を中心)

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