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コバルトブルーに魅せられて -前人未到のGaN p-n接合への挑戦-名城大学 / 名古屋大学 赤崎 勇

III-V族半導体の研究とLEDの開発

 このエピタキシーという結晶成長法は非常におもしろく,学会や研究会で何回か発表しました。それをたまたま,当時,新設の松下電器産業東京研究所長になられた小池勇二郎東北大学名誉教授が聞かれて,東京研究所にこないかとスカウトされたのです。名古屋大学は反対しましたが,結局,東京研究所の基礎第4研究室長として移ることになりました。当時の松下電器東京研究所というのは非常にユニークで,所長のほかは研究室長が10人いるだけなのです。そして室長は,大学の教授会のように年齢に関係なく,若い者も年配の人も立場は同等で,自由な雰囲気がありました。できたばかりの研究所でしたから,研究室員もすべて自分で集めてくるのです。
 私は,この研究所に移ったら,それまであたためていたことをやろうと心に決めていました。ちょうど,ヒ化ガリウム(GaAs)の半導体レーザーが出て間もないころで,“光る結晶”であるIII-V族化合物半導体の研究を始めたのです。
 私は半導体の研究では“結晶”,“物性”,“デバイス”の3つのことがらは分けては考えられないとつねづね思っていました。したがって,研究するなら結晶成長から物性研究,デバイスまで一貫してやらなければその半導体の真の姿はとらえることは絶対にできないと思っていました。この信念は,現在も変わってはいません。
 最初は,GaAs単結晶をいろいろな成長法でつくり,その物性を調べることから始めました。その結果,非常におもしろい研究成果がでて,モスクワでの半導体物理学国際会議に発表したりレベデフ研究所に招待されたりしました。そのレベデフ研では,低温で発振するGaAsレーザーを見せてもらったのを憶えています。
 GaAsの結晶成長や物性研究と並行して,赤色LEDや緑色LEDの開発を行いました。赤色LEDではGaAsにアルミニウム(Al)やリン(P)を混ぜて作るのですが,緑色にはリン化ガリウム(GaP)を使います。このGaPのバルク単結晶の作製は難しく,高圧下で引き上げる必要があります。当時,高圧引き上げ炉はなく,イギリスで開発された1号機を買いにいきました。そして,日本で初めてGaP単結晶の高圧引き上げをやり,緑色(黄緑色)LEDを作ったのです。しかし,高輝度の青色LEDだけは良質のGaN結晶がどうしても作れないため,実現出来ませんでした。
 一方で,半導体レーザーの方はどうだったかというと,GaAsの赤外半導体レーザーの発振の発表が1962年で,その室温連続発振に林さんの研究グループが成功したのが1970年です。といっても,すごく短寿命で使いものにはならなかったようです。1970年代でしたが,当時はそのような状況でしたから,半導体レーザーでは色(波長)をとやかくいうような段階ではなく,信頼性の向上や長寿命化が最大の課題でした。発光ダイオードの方は,もうすでに赤外はもとより可視光の赤色から黄緑色までは一応実現されていたような状況で,ただ(p-n接合による)青色のみが”未踏”の分野として残されていたのです。その頃の”光りもの”半導体屋にとっては,”高効率青色発光デバイスの実現”と”半導体レーザーの長寿命化”という2つの困難かつ重要なテーマに巡り合えたわけで,これは考えようによっては非常に幸運だったといえるわけです。 <次ページへ続く>
赤崎 勇(あかさき・いさむ)

赤崎 勇(あかさき・いさむ)

1952年,京都大学理学部卒業。同年,神戸工業(株)入社。59年,名古屋大学工学部電子工学科助手,同講師,同教授を経て64年,松下電器産業(株)入社,東京研究所基礎第4研究室々長,同半導体部長等を歴任。81年,名古屋大学工学部電子工学科教授。92年,名古屋大学定年退官。同年,名城大学理工学部電気電子工学科教授,名古屋大学名誉教授。95?96年,北海道大学量子界面エレクトロニクス研究センター客員教授。96?2001年,日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業プロジェクトリーダー。96年~,文部科学省 名城大学ハイテク・リサーチ・センタープロジェクトリーダー。2001年,名古屋大学赤崎記念研究センター(兼務),そして現在に至る。
工学博士,IEEE Fellow,日本フィンランドインスティチュート理事,フランス共和国モンペリエ市名誉市民,科学技術振興事業団 参与(02年~)など。 1995年,ハインリッヒ・ウェルカー金メダル。97年,紫綬褒章。98年,ローディス賞。98年,ジャック・A・モートン賞。99年,米国国体科学技術賞。2000年,東レ科学技術賞。01年,朝日賞。02年,第2回応用物理学会業績賞(研究業績)。02年,藤原賞など多数受賞。

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