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コバルトブルーに魅せられて -前人未到のGaN p-n接合への挑戦-名城大学 / 名古屋大学 赤崎 勇

気相エピタキシャル成長技術の開発

 50年代の後半というのは,次世代技術が大きく展開しようとしていた時代でした。原子力産業もその1つで,シンチレーターと呼ばれるβ線やγ線を捉えるデバイスといったものの開発も行いました。よほど縁があるのか,これも“光りもの”です。
 そのような時に,私の上司が名古屋大学に新設された電子工学科の教授に決まり,私も一緒に行くことになったのです。名古屋大学では,Geを使ったトランジスタの研究をやりました。その頃は,Geの単結晶を入手すること自体が大変な時代でしたから,研究用に望みの特性をもったGe単結晶を得るには自分で作ることから始めなければなりませんでした。
 単結晶ができると,次はp-n接合を作らなければなりません。その頃の一般的なp-n接合の作り方は“拡散法”と呼ばれる方式でした。例えば,p型Ge単結晶にn型の不純物をしみ込ませるのですが,私はこの方法に少し疑問を感じていました。というのは,本来ならn型の部分(層)にはp型不純物はないほうがいいのですが,この方法ではもともとp型結晶を使うので,それは不可能なのです。
 しかも,半導体は,バルク結晶という大きな単結晶から切り出して使うのですが,実際に素子動作に必要な厚さは,ミクロンオーダーなのです。ですから,全く無駄なことをしているわけです。
 そこで考えたのが,“エピタキシャル成長”と呼ばれる方法です。エピタキシーというのは結晶を基板上に軸をそろえて堆積させる方法です。“気相エピタキシャル成長”は,原料をガスの状態で加熱された基板上に流し,原子を積み上げていく方法です。
 しかし,非常に残念なのは偶然にも同じ研究をIBMでやっており,彼らの発表の方が少し早かったことです。 <次ページへ続く>
赤崎 勇(あかさき・いさむ)

赤崎 勇(あかさき・いさむ)

1952年,京都大学理学部卒業。同年,神戸工業(株)入社。59年,名古屋大学工学部電子工学科助手,同講師,同教授を経て64年,松下電器産業(株)入社,東京研究所基礎第4研究室々長,同半導体部長等を歴任。81年,名古屋大学工学部電子工学科教授。92年,名古屋大学定年退官。同年,名城大学理工学部電気電子工学科教授,名古屋大学名誉教授。95?96年,北海道大学量子界面エレクトロニクス研究センター客員教授。96?2001年,日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業プロジェクトリーダー。96年~,文部科学省 名城大学ハイテク・リサーチ・センタープロジェクトリーダー。2001年,名古屋大学赤崎記念研究センター(兼務),そして現在に至る。
工学博士,IEEE Fellow,日本フィンランドインスティチュート理事,フランス共和国モンペリエ市名誉市民,科学技術振興事業団 参与(02年~)など。 1995年,ハインリッヒ・ウェルカー金メダル。97年,紫綬褒章。98年,ローディス賞。98年,ジャック・A・モートン賞。99年,米国国体科学技術賞。2000年,東レ科学技術賞。01年,朝日賞。02年,第2回応用物理学会業績賞(研究業績)。02年,藤原賞など多数受賞。

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