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「これなら,俺は,やりたい」と思えるようなものをつかまえさせるのが教師の役目小柴 昌俊

基礎科学のために応援してくれませんかキャンペーン

聞き手:平成基礎科学財団をおつくりになろうと思った動機は何だったのでしょうか。

小柴:財団は,ノーベル賞をもらった次の年につくりました。日本ばかりではないけれども,基礎科学というのは,何か役に立つものを発明するとか,そういうこととは全然関係ないでしょう。たとえばニュートリノのことがよく分かるようになったって,何の産業の利益にもならない。基礎科学というのは,文明国であろうとすることを少しでも喜ばせるためのものでしかないです。  だから,僕は,産業界――例えばトヨタの大親分の豊田章一郎だって,私の仲のいい友達です。ただ,あいつに「金を出してくれ」なんて,一遍も言ったことはない。どうしたかというと,日本が文明国で,われわれは文明国人であるというなら,日本人の,おじいちゃんもおばあちゃんも赤ちゃんも,みんなが年に1円ずつ,基礎科学のために応援してくれませんかというキャンペーンを始めたわけです。それをだんだんサポートしてくれる人たちも出てきています。たとえば,ある県はその住民の数だけの円を毎年寄付してくれるし,さるお方はおふたり分としてその年に2円,そしてそれが続けられるようにと,別に20万円の基金を下さった。そういう例が,ぼちぼちとたまってきています。
 この財団は,例えば,年に7回ぐらいかな,「楽しむ科学教室」というのを開いています。お母さんが代わりに申し込んだとか先生に引率されて来るとかという人は入れてあげません。その当人が「私が聞きたいから」といって自分で申し込んでくる人間だけを入れています。だから,大体70人ぐらいの人を相手に最先端科学をたっぷりと聞かせて,たっぷり質問をさせてということをしています。そのうちの何回かは教材としてDVDに作成して,希望する全国の高校・大学に無償で送っています。公益財団法人ですから,お金なんかは受け取りません。 <次ページへ続く>
小柴 昌俊(こしば・まさとし)

小柴 昌俊(こしば・まさとし)

1926年 愛知県生まれ 1951年 東京大学理学部物理学科卒業 1955年 ロチェスター大学大学院修了(Doctor of Philosophy) 1958年 東京大学助教授(原子核研究所) 1963年 東京大学助教授(理学部) 1967年 東京大学理学博士取得 1970年 東京大学教授(理学部) 1974年 東京大学理学部附属 高エネルギー物理学実験施設長 1977年 東京大学理学部附属 素粒子物理国際協力施設長 1984年 東京大学理学部附属 素粒子物理国際研究センター長 1987年 東京大学名誉教授 1987年8月?1997年3月 東海大学理学部教授 1994年 東京大学素粒子物理国際研究センター参与 2002年 日本学士院会員 2003年 財団法人平成基礎科学財団設立 理事長就任 2005年 東京大学特別栄誉教授 2011年 公益財団法人平成基礎科学財団へ移行 理事長就任
●研究分野 素粒子物理学
●主な活動・受賞歴等
1985年 ドイツ連邦共和国功労勲章大功労十字章 1987年 仁科記念賞 1988年 朝日賞 1988年 文化功労者 1989年 日本学士院賞 1997年 藤原賞 1997年 文化勲章 2000年 Wolf賞 2002年 ノーベル物理学賞 2003年 ベンジャミンフランクリンメダル 2003年 勲一等旭日大綬章 2007年 Erice賞

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