【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

自分が開発したファイバーを標準にできたのは一番うれしかった大阪府立大学 大橋 正治

ちょっと止まって,時間を置いて考える

聞き手:実際の研究ではご苦労も多かったと思いますが苦労されたことはございますでしょうか?

大橋:苦労というほどのことではないかもしれませんが,大学に来てから何を研究テーマにするかを考えることが一番大変なことでした。NTTの研究所では,研究費がありましたので必要なものは買うことができました。でも大学に赴任した当初は研究費も少なく,少ない予算でできる研究に頭を悩ませました。
 いろいろ考えましたが,今までやってきたことと別のことをやることはできませんから,一番よく知っているファイバーの性質に関する研究を行おうと考えました。それで,光ファイバーセンサーをやろうと思い,いろいろと調べました。
 当時,グレーティングの話題が注目を集めていまして,そこで一番作りやすいグレーティングは何かといろいろ考えて,長周期のファイバーグレーティングでセンサーを作ることを思いつきました。  グレーティングを切るということはコアの長手方向に周期構造のものを作るということですが,それをどうやって作るか。普通はエキシマレーザーを使って屈折率を変化して作製しているのですが,そんな予算は到底ありません。そこで思い当たったのが方解石でした。方解石は見る方向で違いがありますが,つまりは複屈折です。そこで光弾性効果を使うことで,長周期ファイバーグレーティングは作れるのではないかと考えたのです。
 なにか周期構造の物をファイバーの上に置いて押さえればいいのですが,そのままではかさばりますしうまく使えません。そこで,熱収縮チューブの中にファイバーとネジを入れて収縮させればうまくいくのではないかと思ってやってみたところ,大成功でした。
 いったんいいものができれば説得材料ができ,外部からの研究費をもらうことができ、一息つくことができました。
 NTTでファイバーの長手方向の分散分布を測定する方法や装置を考えていました。OTDRを用いた方法で,波長分散を評価するために,比屈折率差をうまく評価することができませんでした。こちらに来てからもしばらく,どうしてうまく評価できないのかを考えていたのですが,ある時に数式でどの項が本当に重要なのかに気づいて,簡単に評価ができるようになりました。それ以降は,自分で数式を書いているときでも,どの項が一番よく効く項なのか,同じ量に対応していてもどんな差があるのかということを考えるようになりました。
 自分でも忘れていると思っていた何か未解決の問題でも,できなかったということをきちんと覚えていれば,何気ないときにその答えやアイデアがポッと出てくるのと私は実感しています。一つのことに集中しすぎると,今まで自分が経験したことも排除されてしまうのかなと思っています。だから,リラックスしたときに自分の頭の中からうまく問題を解くきっかけや考え方が抽出できるのではないかと思っています。問題が起こったときには,そこでずっとやってしまうのですが,ちょっと止まって,時間を置いた後でまたもう一回考えることも重要だと思うのです。 <次ページへ続く>
大橋 正治(おおはし・まさはる)

大橋 正治(おおはし・まさはる)

1953年 岡山県生まれ 1972年 岡山県立玉島高校卒業
1977年 名古屋工業大学工学部 電気工学科卒業
1979年 東北大学 大学院工学研究科 電気及び通信工学専攻修了
1979年 日本電信電話公社(現NTT入社)
2002年 大阪府立大学大学院工学研究科教授
●研究分野
光伝送媒体に関する研究 次世代光ネットワークに関する研究 光ファイバセンシング技術の研究
●主な活動・受賞歴等
1997年~2008年 ITU-TSG15課題18のラポータ(3会期)
2004年,2008年 Certificate of Appreciation, ITU-T
2011年 日本ITU協会賞功績賞
2013年~ IEC TC86 国内委員会 委員長

私の発言 新着もっと見る

本誌にて好評連載中

私の発言もっと見る

一枚の写真もっと見る