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しっかりした高い目標を掲げれば実現への道はやがて拓ける国立天文台 教授 家 正則

国際プロジェクト

 TMT計画は国際プロジェクトです。個人の努力や力量だけで実現できる計画ではありません。国際チームの中でもメンバーごとの意見の調整が必要です。TMT計画としては一致できても,各国でその計画のすばらしさを訴え,それぞれの政府から予算をつけてもらわねばなりません。各国ごとに自分たちではコントロールできない枠組みとか制度があり,その制度を動かしている人々に,納得して協力してもわらなきゃ実現できないわけですね。予算がついても,10年に及び建設期間中には,予期できない事態が発生する可能性があります。そういうさまざまなリスクをマネージするところの苦労の方が多いです。
すばる望遠鏡からのレーザービーム。高度90~でナトリウム原子を発光させて、「人工星」をつくるためレーザーを送信。この人工星のゆらぎ方が打ち消されるように補償光学装置を駆動すると、大気によるゆらぎをキャンセルしてすばる望遠鏡の視力が10 倍に改善できる。

すばる望遠鏡からのレーザービーム。高度90~でナトリウム原子を発光させて、「人工星」をつくるためレーザーを送信。この人工星のゆらぎ方が打ち消されるように補償光学装置を駆動すると、大気によるゆらぎをキャンセルしてすばる望遠鏡の視力が10 倍に改善できる。

 建設開始に向け,現在国際合意書を弁護士チームを交えて,署名寸前の状態にまできています。この国際合意書の文面協議も大変でした。各国はTMT計画への貢献義務と引き替えに観測時間の権利を得ることになりますが,その計算法についてカリフォルニアのグループと日本とで意見の対立があり,4年間合意ができませんでした。国際シンクタンクに調停案を出してもらって,最後は合意することができました。ちょっとしたTPP交渉のようなものでした。
 国際合意の内容も日本の予算会計制度に則っていなければなりません。それを確認しながら予算要求を支えてくれる事務方との意志疎通は不可欠です。望遠鏡建設のための様々な技術課題は,天文学者や天文台の技術者と関連企業のエンジニアが智恵を出して解決していかねばなりません。みんなに素晴らしいプロジェクトだと思って協力してもらえるようにすることが大事です。
 そのためには,高い科学目標と実現可能な技術仕様を設定することが重要です。TMTが完成すると「宇宙の最初の歴史が分かる」,「地球のような生命を宿せる惑星を探せる」,「ダークエネルギーの正体に迫ることができる」などが大きな研究テーマとなると考えています。誰が見ても「なるほど,これなら大型予算も惜しくない」と思ってもらえるよう,その目標に至る道のりを技術面,予算面,スケジュール面で,説得力のあるシナリオにすることが大事ですね。幸い,すばる望遠鏡も,TMTもそういう説明ができたから,多くの皆さんと政府に応援していただいているのだと思います。
 2012年秋からTMT応援寄付金のキャンペーンを始めましたが,2013年3月までの半年たらずの間に1583名の方々から寄付を戴きました。2014年3月11日には寄付者銘板をハワイ観測所に掲示してきました。このキャンペーンは継続していますので,関心のある方は、是非国立天文台のホームページをご覧下さい。1000円から名前が残るお得なキャンペーンです(笑)。 <次ページへ続く>
家 正則(いえ・まさのり)

家 正則(いえ・まさのり)

1949年札幌市生まれ 1972年東京大学理学部天文学科卒業 1977年東京大学理学系大学院博士課程修了 1977年日本学術振興会奨励研究員 1977年東京大学理学部天文学科助手 1981年東京大学東京天文台助手 1986年東京大学東京天文台助教授 1988年国立天文台助教授 1992?国立天文台教授 この間,日本天文学会副理事長,総合研究大学院大学数物科学研究科長,国際天文連合日本理事,日本学術振興会学術システム研究センター数物系科学主任研究員,国際光工学会シンポジウム組織委員長などを歴任
●分野
銀河物理学,観測天文学
●主な受賞歴等
2013年日本学士院賞 2011年紫綬褒章 2011年東レ科学技術賞 2010年文部科学大臣表彰 2010年研究部門 2008年仁科記念賞 2006年日本光学会 2006年度光設計特別賞 2003年第44回平成15年度科学技術映像祭文部科学大臣賞(科学技術部門) 2002年第13回ハイテクビデオコンクール2002年度最優秀作品賞

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