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しっかりした高い目標を掲げれば実現への道はやがて拓ける国立天文台 教授 家 正則

次は国際協力で30m望遠鏡TMTを建設

 2002年にはすばる望遠鏡と全ての観測装置が安定して動き始め,全国の天文学研究者の観測が精力的に進められるようになりました。すばる望遠鏡は,私が1984年に留学から帰国してから本格的な検討を始めて,出来上がって装置が全部動いたのは2002年ですから完成までに18年かかっています。ということは次の望遠鏡を2002年から考え初めても,できるのは2020年以降になるということになります。
 動いた時点ですぐ次を考えないと,計画が出遅れてしまいますから,2002年頃から日本ですばるの次の30m望遠鏡を構想し,その設計や技術開発を始めました。日本独自のセラミックス技術を用いた鏡を開発するなどして独自の計画を2005年にまとめたのですが,必要な予算は,2,000億円程度との見積もりとなりました(笑)。
建設地をハワイ島マウナケア山に決めた2008年のTMT評議会

建設地をハワイ島マウナケア山に決めた2008年のTMT評議会

 すばる望遠鏡は9年間で400億円の予算を付けてもらいましたが,遠慮知らずの天文学者でも,2000億円の予算要求は塩漬けにされることぐらい予想できます。実現性を考えると,日本単独ではなく国際協力の道を追求するしかないと考え,2006年には学界からもその方針に賛同を得ました。
 その頃,次世代の超大型望遠鏡想は日本以外に3つありましたが,多くは南半球のチリアンデスでの建設を想定していました。チリからは南の宇宙は見えますが,北の宇宙を見るには北半球にも望遠鏡が必要です。どの構想に合流すべきか,誰と結婚すべきかという,決断が必要になりました。
 8mすばる望遠鏡と同程度の規模の望遠鏡は,2014年時点で世界中で10台余りありますが,すばる主焦点カメラ(Suprime Cam)ほど広い視野を一度に観測できる望遠鏡は一台もありません。我々が129億光年ものかなたの最も遠い銀河を見つけることができたのも,広い視野を一度に探査できるこのカメラがあったおかげです。すばる望遠鏡は日本の天文学者が望む観測機能を全て満たすためいろんな装置が付けられるように,がっしりした望遠鏡にしました。だから望遠鏡のてっぺんに重たいカメラを付けることができます。
 この機能は世界中の他の8m望遠鏡では実現できません。米欧の天文台は,望遠鏡をなるべく軽く安価にして複数の望遠鏡を建設し,観測時間を増やす戦略を取りました。そのため,後から大きな重たいカメラを望遠鏡の先端に付けるような改造は,できなかったからです。ですから今後当分の間,広視野カメラでの探査観測はすばる望遠鏡の独断場となります。
TMTの完成予想図(CG)

TMTの完成予想図(CG)

 すばるの隣に超大型望遠鏡TMTを建設できれば,日本の研究者がすばるの広視野カメラで見つけた重要な天体を,日本人がリーダーシップを執ってTMTで詳しく観測することができます。そうすれば日本から天文学でのノーベル賞受賞者が出る可能性が開けると私は考えました。
 だから,TMTの建設地はチリではなく,是非ハワイにしたい。2008年にはTMTはチリにするかハワイにするか決めていませんでした。ハワイに建設するなら一緒にやりますと持ちかけたのです。アメリカ,カナダは手続きが簡単なチリで建設を進めたかったのですが,日本が参加しないと予算も足りないのでハワイになったわけです(笑)。ですから我々は非常に責任も大きいと思っています。 <次ページへ続く>
家 正則(いえ・まさのり)

家 正則(いえ・まさのり)

1949年札幌市生まれ 1972年東京大学理学部天文学科卒業 1977年東京大学理学系大学院博士課程修了 1977年日本学術振興会奨励研究員 1977年東京大学理学部天文学科助手 1981年東京大学東京天文台助手 1986年東京大学東京天文台助教授 1988年国立天文台助教授 1992?国立天文台教授 この間,日本天文学会副理事長,総合研究大学院大学数物科学研究科長,国際天文連合日本理事,日本学術振興会学術システム研究センター数物系科学主任研究員,国際光工学会シンポジウム組織委員長などを歴任
●分野
銀河物理学,観測天文学
●主な受賞歴等
2013年日本学士院賞 2011年紫綬褒章 2011年東レ科学技術賞 2010年文部科学大臣表彰 2010年研究部門 2008年仁科記念賞 2006年日本光学会 2006年度光設計特別賞 2003年第44回平成15年度科学技術映像祭文部科学大臣賞(科学技術部門) 2002年第13回ハイテクビデオコンクール2002年度最優秀作品賞

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