【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

何が本当のエコなのかを考えなければいけない東京工業大学大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻教授 矢部 孝

限られた知識で物事を判断しない

聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生などに向けて光学分野の面白さやメッセージをお願いします。

矢部:光学分野に限らなくていいと思います。「自分は何々分野」などと自分で閉じ込めてはいけません。とにかく興味があったらやってみなさいと言いたいです。そして専門家の人でも臆せずに付き合うことです。学ぶことはたくさんあると思います。
 私は学生を指導する時に,学生が言ったことに対して「駄目だ」「間違っている」ということを一切言わない。全部聞き置くんです。何か言っても「うん,うん」と聞いて,すごくいい時はすごく褒めます。明らかに間違っているような場合でも何も言いません。学生が自分で間違っていることを見つけるまでは言わない。卒論をずっと間違ったままやっている学生もいます。最近は,間違っていると時々言うこともあるけれども,なるべく言わないようにしています。
remark54_6 私には非常に苦い経験が1回あります。学生時代,レーザー核融合をやり始めた時に,計算でよりいい方法を見つけたんですが,指導の先生に「そんなものは作れないから,やってもしょうがないよ」と言われました。結局「そうか」という感じでほったらかしてしまったんですが,1年もたたないうちにアメリカのフィジカルレビューレターというすごく有名な雑誌に,私が見つけたこととほぼ同じものが掲載されました。
 この経験もあり,限られている知識で「あれが合っている,これが違っている」ということは言ってはいけないんだと思っています。
 研究では壁にあたることも多くありました。ただ自分で言うのもなんですが僕の性格がすごく良くて,大体どんなことがあっても3日で忘れます。詐欺とか相当ひどい目に遭いましたけど,3日たつと,「まあ,いいか」という感じなんです。研究もそうです。ものすごく難しい問題があると,「うーん」と思いながら失敗しますし,装置が壊れることもあります。でも何とかなると楽観的なんです。くよくよしていてもしょうがないですから,次をやるしかないんです。とにかく何とかなると考えて,何とかしてきました。
 レーザー核融合は,私が研究していた今から30年ぐらい前に「あと50年」と言っていましたが,いまだに「まだ50年」と言っています。確かに核融合は有望ですけれども,マグネシウムはすぐ手に届きますから。ぜひ皆さんにもやっていただきたいですね。みんなでやればあっという間にできるはずなんです。
矢部 孝(やべ・たかし)

矢部 孝(やべ・たかし)

1950年宮崎県生まれ 1973年東京工業大学工学部機械物理工学科卒業 1973年東京工業大学工学部機械物理工学科助手 1981年大阪大学レーザー核融合研究センター講師 1985年大阪大学レーザー核融合研究センター助教授 1986年西独カールスルーエ原子核研究所客員教授 1988年群馬大学工学部電気電子工学科教授 1995年 東京工業大学大学院 総合理工学研究科 創造エネルギー専攻教授 現在 東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻教授
●研究分野:応用光学,エネルギー
●主な活動・受賞歴等
1999年 英国王立研究所200周年記念講演 2004年日本機械学会・計算力学部門・功績賞,流体科学賞 2006年 国際数値流体力学会名誉フェロー 2007年APACM Award for Computational Mechanics(APACM 計算工学アジア太平洋連合) 2010年IACM Award for Computationnal Mechanics(IACM国際計算工学連合)

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