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出口を見据えたデバイス研究を東京工業大学 精密工学研究所附属 フォトニクス集積システム研究センター 教授 小山 二三夫

10年先を見通して研究の方向性を考える

聞き手:今までのご研究ではさまざまな困難や失敗があったと思いますが,デバイス研究の難しい点をお聞かせください。

小山:デバイス研究では,デバイスによってそのプロセスのステップは異なりますが,どこか1つ不都合な点があっても成り立たないんですね。すべてが完璧でないといけないので,そのプロセスでは,非常にひどい,痛い目をずいぶんみています。そのあたりの注意力は非常にある種のレベルまでいかないと,なかなかいいデバイスを実現できない難しさはあります。もちろん原理的に間違っている場合はなかなか難しく,いつまでたってもできないということになります。結果,仮に目指していたデバイスができたとしても,タイミング次第ではもうすでにその先の展望が見えないということもありますので,これまで失敗は山ほどあるわけです(笑)。
 例えば,室温連続発振では,どれか1つ抜けても駄目なんです。素子抵抗が高いということになると,それによる発熱により室温で動作できなくなってしまいます。つまり,すべてのステップで,ある種の条件を整えながら完成させることが必要です。それでも,まだ解があるかどうかも分からないわけですね。誰もがまだそこへ到達していない時期ですと,本当にそれが到達できるかどうかも分からない。だから,課題を一つひとつ解決して積み重ねることと,それから正しくそのアプローチが進められているかを両方満足しないと,最終のゴールにはたどり着かないことになりますので,そこはやっぱりデバイス研究の難しさだと思います。
 大学の場合はある種,学生諸君が研究の担い手ですので,あるサイクルで研究内容を変える必要がどうしてもあるんです。ただ研究としては数年で完結することはあまりないものですから,学生諸君が学位論文を書きながら,徐々にそれをステップアップするアプローチをとることが多いんです。ただその方向性が正しくない場合,あるいは出口が必ずしも将来の世の中に適用しなくなることもありますので,そのときにいつやめなきゃいけないかという判断をします。学生諸君は入れ替わりがありますので,そのタイミングが1つの判断になります。
 どちらかと言えば,研究の進捗よりは世の中の将来の動向を予測して,これはもうここでクローズしたほうがいいだろうという判断をすることのほうが,私は多いと思うんです。もちろん技術的な難しさとか,本質的に解がないとそもそも駄目なんですけど,なかなかそこは分からない部分があります。ですので,将来の出口を考えて,当初考えた状況と世の中の進展を両方加味して,さらにその先の10年後ぐらいを見通して,続けるべきかどうか,そういうデシジョンが重要だと思います。 <次ページへ続く>
小山 二三夫(こやま・ふみお)

小山 二三夫(こやま・ふみお)

1957年東京都生まれ。1980年東京工業大学 電気電子工学卒業。1985年東京工業大学理工学研究科電子物理工学博士修了。1985年東京工業大学精密工学研究所助手。1988年東京工業大学精密工学研究所助教授。2000年東京工業大学精密工学研究所教授。
●研究分野:光エレクトロニクス,面発光レーザーと光マイクロマシン,半導体光集積回路の研究,超高速光データリンクの研究。
●1985年英Electronics Letters 論文賞,1986年米電気学会学生論文賞,1988年英Electronics Letlers 論文賞,1989年電子情報通信学会論文賞,1989年電子情報通信学会奨励賞,1998年丸文学術賞,1998年応用物理学会会誌賞,2002年電子情報通信学会論文賞,2004年市村学術賞功績賞,2005年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ賞,2007年文部科学大臣表彰科学技術賞,2008年IEEE/LEOS William Streifer Award, 2011年Microoptics Award,2012年応用物理学会光・電子集積技術業績賞など受賞。

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