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科学の面白さと光触媒の効用を伝導東京理科大学 学長 藤嶋 昭

天寿を全うするための科学技術に

聞き手:藤嶋学長は以前より,科学全般に対して「科学技術ですべての人が天寿を全うできる社会へ」とのお考えを提唱されてきています。こうしたお考えは,科学分野の研究に携わる上でとても大事にされていることなのでしょうか。

藤嶋:そうですね。何のための研究なのか,研究の最終目標は何かということです。私は,全人類すべての人たちが天寿を全うすることを最も願っておりまして,その実現に向けて新たな科学技術の研究を通じて少しでも寄与できると考えています。裏を返せば,天寿を全うすることに寄与できるための科学技術でなければ意味がないとも思うわけです。
 では,天寿とは何かといえば,亡くなる直前まで健康で快適に,食料も十分にあり必要なエネルギーも十分満たされている状態で与えられた命を最後まで全うする――それが天寿を全うするということと捉えています。こうした状態で与えられた命を最後まで全うするには,エネルギーを蓄えてそれを利用して食料を作る,あるいは大気や水などを浄化し少しでも殺菌して病原菌をなくせるような環境,ひいては社会の実現を目指して科学技術を創出・開発・確立することが最終目標にするべきと考えています。
 こうした考えにピッタリ合う,そしてこうしたことを実現するのが,私が長年研究に携わってきた光触媒です。
つまり,光触媒の研究に携わってきたこともあって,こうした考えに行き着いたわけです。自画自賛に聞こえるかもしれませんが,“いい研究”は最終的に社会に寄与できると考えています。特に,私が携わっている理系の研究は直接社会に寄与できる利点を備えていることから,素晴らしい社会活動であると思うのです。研究活動以外でも,医師のように患者さんの病気を直接治すことは社会にとって大事な活動であり,農家の方々のように直接食料を作ることも大変重要な活動です。現在,私を含めた研究者たちが取り組んでいる光触媒の研究は,空気や水を浄化し,エネルギーを蓄積することを可能にします。
 こうした考えは,東京理科大学(理科大)の学生たちにも機会のあるごとに私からメッセージとして伝えていますし,2006年に出版された書籍『天寿を全うするための科学技術?光触媒を例にして?』(藤嶋昭著,かわさき市民アカデミー出版部発刊)にもまとめています。

聞き手:こうしたお考えは,2006年の東京理科大学創立125周年で打ち出されたコンセプト「Con’science’(カンシャンス:英語・フランス語で「良心」の意)~21世紀の「科学」は「良心」へ向かう?」にも通ずると感じましたが,いかがでしょうか。

藤嶋:このコンセプトは,私が学長に就任する3年前に,当時の理科大の指導者の方々が思案しまとめられたもので,私が考案したものではありません。しかしながら,科学が進歩する上で“人間の良心”は必要不可欠であり,素晴らしいコンセプトだと思っています。
 例えば,原子爆弾の発明ではAlbert Einsteinは大変後悔しているわけです。Einsteinは,相対性理論から原子爆弾のもとになるE = mc2を導き出しています。質量変化mに光速度cの2乗を掛けることで,エネルギーが生じることを相対性理論から導き出したわけです。
 この相対性理論をベースに考えると,質量変化が起こる1つが核融合であり,また核分裂です。核融合の例は太陽のエネルギーです。核分裂でも大きいエネルギーが生成できることから,それを爆弾に利用する発想を基にウランの分解で質量変化が起こすことができれば,破壊力の大きい爆弾が実現できると予測していたのがEinsteinでした。Einsteinは第2次世界対戦中に,米国政府に協力し原子爆弾を製造してしまうのです。その後,良心の呵責に苛まれて「私は間違っていた」と述懐しています。こうしたEinsteinの行動や言動は,“科学に対する良心”の大切さを言っているように思えるのです。科学技術,ひいては科学はそれに携わる人たちの思考・思想によって,便利なこと・物を創出できる反面,戦争兵器など人を殺傷する手段にも利用されることにもなるわけです。 <次ページへ続く>
藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

藤嶋 昭(ふじしま・あきら)

1942年東京都生まれ。1966年横浜国立大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1971年神奈川大学工学部講師。1975年東京大学工学部講師。1978年東京大学工学部助教授。1986年東京大学工学部教授。1995年東京大学大学院工学系研究科教授。2003年~神奈川科学技術アカデミー 理事長。2003年JR東海機能材料研究所所長。2003年東京大学名誉教授。2005年東京大学特別栄誉教授。2006年日本化学会会長。2006年神奈川大学理事。2008年科学技術振興機構中国センター長。2010年東京理科大学長。
●研究分野:光電気化学,光触媒,機能材料
●1983年朝日賞,1998年井上春成賞,2000年日本化学会賞,2003年紫綬褒章,2004年日本国際賞,2004年日本学士院賞,2004年川崎市民栄誉賞,2006年恩賜発明賞,2006年神奈川文化賞,2010年川崎市文化賞,2010年文化功労者,2011年The Luigi Galvani Medal,2012年トムソン・ロイター引用栄誉賞,トリノ大学より名誉博士の称号授与

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