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うまくいかない研究・開発もそこから学べるため失敗ではないアリゾナ大学 光科学部 眼科光学科 教授 John E. Greivenkamp

理論と光学機器の組み合わせで分かりやすい講義を実践

聞き手:コダック・リサーチ・ラボラトリーズを含めコダック社で約10年間,研究科学者として務められた後,1992年から母校のアリゾナ大学に戻られて,オプティカルサイエンスセンターおよび眼科光学の准教授を務められています。その経緯についてお聞かせください。

Greivenkamp:私がアリゾナ大学へ再び戻ってきたことには,いくつかの理由があります。1つは,コダック社の業績が悪化したことを受け,新入社員の採用・募集を中止したことです。このような事態になるまで,私は新入社員や若手社員の指導業務に当たっていました。この指導業務は私にとって大変有意義であり,仕事の面白さを感じて積極的に取り組んでいた時でしたので,新入社員の募集中止は非常にショックでした。
 そうした中,アリゾナ大学から私に転職のオファーが来ました。これは,私にとってグッドタイミングなオファーであり,私の人生で一大転機となりました。これが2つ目の理由です。このことについては,面白い逸話があります。実は,大学卒業のころ,友人には「将来,人に教えるような職業には絶対に就かない」と断言していたのですが,まさかアリゾナ大学に戻って教職に就くことになろうとは,全く考えも及びませんでした。まさに,“人生の妙”といえるでしょう。こうしたことが現実となった理由は,10年間のコダック社での在籍中,新入社員や若手社員に指導することが私の中でだんだん重要なものになりえたこと,私自身が計測技術など光学関連技術を習得するにつれて,複数の社員の輪の中で話すことに抵抗感が全くなくなったことが大きいと思います。それから現在に至るまで,教えることが本当に好きであることを実感し,現状に飽き足らず,もっと積極的にいろいろな指導法を駆使して教えたいと思っています。
 幸運なことに,私は現在光工学を専攻して間もない学生や大学院生を対象に,幾何光学と光学システム設計のコースで教鞭をとっています。私にとって教えることの醍醐味とは,分かりやすく教える方法を構想し実施することです。そうした方法を実施するのは,決してたやすいことではありませんが,私にとってとてもチャレンジしがいのあることなのです。分かりやすく教える方法には,デモンストレーションの要素を増やすことがあります。例えば,カメラやプロジェクター,アンティークな望遠鏡や顕微鏡などあらゆる光学機器を講義に持ち込んで,直接学生の手に触らせる,あるいは分解してみせることでその機器がどのような構造になっているのか,どのような原理で動作しているのかを実感しながら学んでもらえるようにしています。また,アンティークな光学機器については「良き技術者,良き科学者,良き指導者になるためには,まず学ぶ対象の歴史を理解することが必要」との考えに基づき講義で用いています。現在,私が教える幾何光学で最も重要なポイントは光学機器がどのように設計されているか,それがどのように動作するかなどであり,これを学生に対し理解を促すことが非常に重要なことととらえています。つまり,私の講義では理論(ソフトウエア)に加え,さまざまな光学機器(ハードウエア)を持ち込み,実際に動作している状態を見せて理解を促す(ソフトとハードを組み合わせた)教え方を実施しているのです。 <次ページへ続く>
John E. Greivenkamp(ジョン・E・グリービンキャンプ)

John E. Greivenkamp(ジョン・E・グリービンキャンプ)

1953年米国オハイオ州シンシナティ生まれ。1976年トマス・モア大学文学士号修了。1979年アリゾナ大学修士課程修了。1980年アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター(現カレッジオブオプティカルサイエンス)博士課程修了。1980年イーストマン・コダック社研究科学者。1982年イーストマン・コダック社シニア研究科学者。1987年イーストマン・コダック社,コダック・リサーチ・ラボラトリーズ助手。1992年アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター,および眼科光学准教授就任。1997年アリゾナ大学オプティカルサイエンスセンター(現カレッジオブオプティカルサイエンス),および眼科光学教授就任。
●専門のご研究内容:光学干渉測定法,光学試験,光学加工,眼科光学,光学測定システム,光学システム設計,電子撮影システム工学などを研究
●1999?2000年SPIE(The International Society for Optical Engineering and of the Optical Society of America;国際光工学会)実行委員会メンバー。2001?2003年国際光学委員会の米国諮問委員会メンバー。2002年OSA(The Optical Society;)科学技術評議会議長。2002?2003年SPIE教育委員会委員長。1994年APOMA (American Precision Optics Manufacturers Association;米国精密工学会)メンバー。1995年OSAフェロー。1996年SPIEフェロー
●2007年著書「SPIEフィールドガイド幾何光学」,2008年編集「SPIEフィールドガイド 大気光学」,2010年編集「SPIEフィールドガイド 視覚と眼の光学」(すべてオプトロニクス社より発刊)

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