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企業現場で培った光学知識・技術を大学教育に活用高島 譲

プロジェクト形式の講義で実地教育

聞き手:高島先生は現在,米アリゾナ大学光科学部において准教授を務めておられますが,どのような講義をされているのでしょうか。

高島:現在は,学部学生向けと大学院生向けの2つの講義を受け持っています。学部学生向けでは,幾何光学での収差論やレンズ設計の基礎などの講義に加えて,光学設計ソフトウエアを使って実際にプロジェクト形式でマーケティングを基に仕様策定からリポート作成までを半年間で行う講義をしています。その講義では技術仕様を策定する前に,学生たちにはマーケティング・リサーチ・ドキュメントを作成してもらいます。というのも,「このようなニーズがあるから,この仕様を策定する」というプロセスをきちんと考えてからスタートしてもらうことを目的としているからです。
 しかし,なかにはすぐに私の元に歩み寄ってきて「それなら,僕は望遠鏡設計のプロジェクトがいい」「俺はカメラレンズを設計しよう」などと言ってくる学生もいるわけです。そうした学生に,私が「そういう仕様策定の仕方ではダメ」と言うと,「どうしてダメなんですか。この授業は光学設計の授業でしょ?」と不満げな顔で詰め寄ってくることもあります。そんなときは「君は望遠鏡(カメラレンズ)を設計したいと言うけれど,本当に望遠鏡(カメラレンズ)でいいのか。では,どうして望遠鏡(カメラレンズ)ではなくてはならないの?」とその理由について尋ねるようにしています。というのも,学生は特に大意はなく思いついたことを口にしているだけだと思いますが,「なぜ望遠鏡なんだ? どうしてカメラレンズなの?」と考えさせて事前にマーケティングをきちんと定義させ,それを基に技術仕様を設定するプロセスを踏まなければ,たとえ大学の授業での非常に小さなスケールのプロジェクトでも完了できたかどうかを明確に判断できなくなってしまう恐れがあるからです。ある目的を達成するのに,望遠鏡やカメラレンズでなくてもいいわけで,マーケットニーズなどさまざまな要素を考慮し,そこから突き詰めて考えて仕様対象を絞り込み,策定することが重要になると思っています。こうした話をしても,このような学生は半信半疑に応答するだけです(笑)。
 学生にとって,プロジェクトを達成することは多分それまで経験がないと思いますので,仕様を策定するにしても,マーケティング・リサーチ・ドキュメントを作成するにしても,それをテクニカルドキュメントに落とし込むにしても,光学の知識が必要になったり,技術的ディスカッションが必要になるなどさまざまな場面で,学生自身が光学設計の知識を深めていくことが要求されます。したがって,収差論などの光学設計の知識は通常の講義形式で学び,さらにプロジェクトを通して仕様策定,ガウス光学レベルでの設計,3次収差の考慮,ソフトウエアによる最適化,そして公差解析などを含む光学設計を一通り経験することになります。
 一方,大学院生向けには,ナノフォトニック光学システム設計の授業を担当しています。この授業は学部学生向けと同様の形式で,ナノフォトニクス応用デバイスの理解と,同時に設計プロジェクトの達成を目的としています。ただし,対象としては物理光学や電磁場解析を含め幾何光学を超えた広範囲の光設計,例えばプラズモニックデバイス,フォトニック結晶デバイスなどの光学設計に,電磁場解析ソフトウエアを使って取り組むものです。 <次ページへ続く>
高島 譲(たかしま・ゆずる)

高島 譲(たかしま・ゆずる)

1990年京都大学理学部物理学科(学士)卒業・取得。1990年(株)東芝入社(生産技術研究所 精密技術研究部に配属)。2000年スタンフォード大学電気工学科リサーチアシスタント。2003年スタンフォード大学電気工学科(修士課程)修了。2007年同大学電気工学科(博士課程)修了,同科ポストドクター。2010年スタンフォード大学電気工学科リサーチアソシエイト。2011年アリゾナ大学光科学部准教授(カレッジオブオプティカルサイエンス在籍)
●SPIE(国際光工学会),OSA(米国光学会)所属

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