【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

光が我らを導く果てまで ~光の導く交流が研究成果へつながる原動力に~横浜国立大学 理事(総務・研究担当)・副学長 國分 泰雄

優れた人と巡り会える運の強さが一番の財産

聞き手:ご研究に関する話を伺っている限り,その過程で求めている成果が出ないなどの理由で苦悩されたり,挫折感を味わうなどのご経験はあまりないように見受けますが,実際はいかがでしたか。

國分:研究に携わっていれば,当然,上手くいかないことも,挫折感を味わうこともあります。KASTでの3次元マイクロフォトニクスプロジェクトでは,1996年の開始から1年半の間は成膜装置の度重なる故障で実験が思うように進まず,プロジェクト期間である3年間の半分を無駄にしてしまった経験があります。まして,神奈川県民の税金で捻出された大規模な予算で賄われていたこともあり,その1年半は研究成果が出せないことに焦りを感じ苦悩する時も度々ありました。
 ただ,その後は専門メーカーの大幅な改修で成膜ができるようになり,さらにSai Tak Chu博士をはじめ研究員や学生たちが大変頑張ってくれたおかげで,最終的には指数関数的に研究成果を出すことができました。

聞き手:このプロジェクトでも厳しい時にサポートする人たちが集まってきて個々の力を発揮してくれるというのは,ご人望,ご人徳によるものと思います。

國分:人望,人徳は別にしても,複数で研究を進めるにはチームワークが大事だと思っています。あの時はそのチームワークがとれていたので助かりました。これは,プロジェクトに限らず研究室や学会などでも大事なことだと思います。私が結成の初期から実行委員を務めている微小光学研究グループはとても家族的で,以前は委員の方がそれぞれ家族を伴い集って東京湾の花火大会を見に行ったり,自然に囲まれた所で合宿したりしていました。委員のメンバーは時を経て代替わりしていますが,私は大学の仕事で忙しくなって貢献できなくなっても“平の委員”で残してくださいとお願いして今でも籍を置かせてもらっています(笑)。この研究グループは,もともと伊賀先生が発起人で結成され,先生のお人柄が映し出されたものになっているのです。
 これまで私の“研究人生”を振り返ると,恩師,同僚,後輩や弟子などいろいろな人たちとの出会いによって研究成果が得られてきたと自己の幸運を感じています。Mike(Duguay博士)が撮影した写真がきっかけで光エレクトロニクスの分野に入り,大学院の進学後に恩師となる伊賀先生と出会い,大学教員になった初年度は実験設備が何もなく机と椅子しかない研究室に, 現NTTフォトニクス研究所の鈴木扇太所長をはじめ快活な大学4年生たち,翌年には当時大学4年生の馬場俊彦教授との出会いもありました。さらに,ベル研究所ではMichel A. Duguay博士(Mike)本人との出会いがあり,その後KASTプロジェクトではSai Tak Chu博士と再会して研究を共にし,その他には研究室や研究プロジェクトでは優秀でやる気のある学生たちや研究員たちにも恵まれました。私にとってその時々に優れた人と巡り会える運の良さは,私の一番の財産です。

聞き手:これまで担ってきた研究の過程において,このまま続けていくべきかそれともこの先続けても成果が見込みにくいため断念すべきか苦渋の選択に迫られたご経験もあるとのことですが,そうした局面で決断するための秘訣がありましたらご教示ください。

國分:それまで取り組んできた研究に見切りをつけるには,複数の研究を同時に手掛けていることと,次に着手できる研究テーマを常に頭の中にストックしておく必要があると思います。進展がないからと続けてきた研究をあきらめるだけでは,研究テーマはだんだん先細りして新たな展開や広がりは望めなくなっていくからです。研究テーマを広げていく過程では,どこに見切りをつけてどこをさらに進めていくかの判断力,冷静に原因を突き詰める追究力も必要です。
 とはいえ,私自身もこれまで上手くいかなかった研究テーマはいくつもあります。ただ,研究を継続することで,これまでと全く異なる問題解決の糸口がたまたま見つかり,研究成果につながった“セレンディピティ(幸運な発見)”もあるのです。それは,ある程度運によるところもありますが,こだわりをもって必死で研究に取り組み続けていれば新たな展開が開かれることもあり,それこそが研究の“ダイナミズム”と“面白さ”ではないかと思うのです。 <次ページへ続く>
國分 泰雄(こくぶん・やすお)

國分 泰雄(こくぶん・やすお)

1975年横浜国立大学工学部電気工学科(工学士)卒業。1977年東京工業大学理工学研究科電気工学科修士課程修了。1980年東京工業大学総合理工学研究科電子システム博士課程修了。同年東京工業大学精密工学研究所助手。1983年横浜国立大学工学部助教授。1984年米AT&Tベル研究所客員研究員(1985年10月まで)。1995年横浜国立大学工学部教授昇任。1996年(財)神奈川科学技術アカデミー「3次元マイクロフォトニクスプロジェクト」プロジェクトリーダー併任(1999年3月まで)。2001年横浜国立大学大学院工学研究院知的構造の創生部門教授。2006年横浜国立大学大学院工学研究院長(工学府長,工学部長兼務)(2009年3月まで)。2009年横浜国立大学理事(総務・研究担当)・副学長(現在に至る)。
●専門のご研究内容:マイクロリング共振器と呼ぶ半径5?20μm程度の微小デバイスを集積化し,大規模集積化可能な波長フィルター,波長選択スイッチや符号化回路などの光集積デバイスを実現。半導体量子井戸を用いた位相変調導波路による高速・低電圧波長ルーティング回路や,波長チャネルを用いる高速信号処理回路の研究を実施。光ファイバーの伝送容量を飛躍的に拡大する空間多重/モード多重伝送用として,マルチコアファイバーとモード合分波器の研究も実施。
●2004年第26回応用物理学会論文賞(解説論文賞)。2005年第3回国際コミュニケーション基金優秀研究賞。同年MOC Award。2008年第2回応用物理学会フェロー表彰「高屈折率差光導波路を用いた光集積デバイスの研究」。2010年IEEE FellowElevation,Citation:for contributions to integrated photonic devices他表彰・受賞。

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