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研究はフェーズによって立場を変えることが大事プライム・オプティクス(株) 有本 昭

博士のレベルが落ちている

有本:これらは,大学にも言えることですね。最近は大学も「知財,知財」と言っていますけど,大学の先生のほとんどは知財に興味がありません。例えば東京大学のTLO(Technology Licensing Organization)は発足以来,特許収入は24億円程度です。特許の数は500~600件。1件で500万円程度の収入ですね。平均収入はそのくらいでも仕方ないかもしれませんが,数をもっと増やさなければいけません。いまだに論文重視の方向性は変わっていないという象徴的な数字だと思います。国の予算が逼迫(ひっぱく)している折,自助努力で研究費を捻出する努力が必要です。
 大学では博士を増やし過ぎてしまい,その上,教育の仕方がおかしいから,あまり役に立たない,あるいはレベルの低い博士の割合が増えています。40歳ぐらいになっても年収が100万円台しか得られない人が出て来ています。需給バランスが崩れているから,お金を払う人がいないのです。大学の先生はそうした事態をさして問題視していません。なぜなら,博士課程の学生を増やすことで研究費が得られるからです。

聞き手:何のためにドクターになるのか疑問を感じますね。

有本:1990年ごろの大学は毎年2000人ほどの博士を作っていました。これが2010年現在では7000人くらいになっています。しかし,大学の定員はそれほど変わっていません。優秀な博士は以前と変わらずたぶん2000人くらいで,彼らはそれなりに良いところに就職できます。問題は残りの5000人です。優秀かどうかはともかく,3000人くらいは企業に入れるので問題ないのですが,残り2000人が職からあぶれてしまいます。これをどうにかしないといけません。大学教員の数が20年間で増えていない状況で,指導する人間が圧倒的に足りなくて教えきれないことは,今後の日本にとって大きな問題ですね。

聞き手:そんな若者たちに何かエールを送っていただけませんでしょうか。

有本:エールではなくアドバイスですが,若い人たちが新しい研究をやるときには,まず長所に目を向けてほしいと思います。短所にばかり目を向けてしまうと,その研究はすぐにつぶれてしまいますから。しかし,まとめる段階になったら今度は,短所も頭に入れておかないと製品になりません。研究の前半は大抵大学の研究と同じだと思いますが,お客さんに売るものの開発だから後半は違ってきます。どこかおかしなところがあると,最後には装置そのものが動かなくなってしまいますからね。研究はフェーズによって少し立場を変えてみることが大事だと思います。
 特に,産学共同事業の場合は欠点をちゃんと調べないと,結局,金の無駄遣いになって終わってしまうことが多くあります。そしてその言い訳としてデータでごまかしたり,市場のせいにしたり。本当は技術の話なのに。だから,大学発産学連携には気を付けなければいけないというのが私の意見です。国家プロジェクトも同様で,プロジェクト発足当初は問題があまり出て来ません。しかし,あるところから巨額をかけて物を作り出すようになったら気を付けなければなりません。
有本 昭(ありもと・あきら)

有本 昭(ありもと・あきら)

1970年,東京大学大学院工学系研究科 物理工学修士課程修了。同年,(株)日立製作所に入社して中央研究所に配属。ホログラフィーおよび同メモリー装置の研究,計算機出力用レ?ザープリンターの開発,反射型プロジェクションTV光学系の開発,光学式ビデオディスクプレーヤーの開発,光磁気ディスク用光ヘッドの研究などに従事。1992年,同社日立研究所に転属。技術主管。1995年,同社中央研究所に再転属。2001年,ペンタックス?に転職し,研究企画に従事。2003年,同社フェロー(執行役員)に就任。2006年,心臓手術を期に非常勤顧問に。現在に至る。工学博士(1979年 東京大学)。電子写真学会技術賞,MOC Paper Award,日本機械学会技術賞,IS&T Charles E. Ives Award,東京都研究発明功労表彰,発明協会 関東発明奨励賞,光協会功労賞など多数受賞。前ISO TC172/SC9国際標準化委員兼ISO/IEC半導体レーザ標準化合同作業部会委員長。

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