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「日本人の持つ“心の襞”の多さは武器になる」スペクトラ・フィジックス(株) 遠矢 明伸

拡大する中国市場

聞き手:日本市場は世界から見てどのような位置付けなのでしょうか?

遠矢:売り上げでいいますと,25~28%ぐらいです。

聞き手:かなり大きいのですね。

遠矢:大きいですね。一国の売り上げとしてはアメリカに次いで2位です。ヨーロッパ市場全体を合わせた金額と同じぐらいですかね。

聞き手:レーザー応用機器が日本国内でたくさん製造されているということでしょうか。

遠矢:そうです。レーザー技術は,まだ標準化が十分に進んでいません。もちろん,アプリケーションにもよりますが。そうした意味で,生産技術を扱うのは先進国じゃないと難しい。さらに,クオリティーを意識している,あるいは生産効率を意識しているマーケットでなければいけない。そう考えると,世界を見渡してもそのような市場は多くはないのです。それが日本やドイツです。
 ただし,日本における売り上げは大きいのですが,必ずしも売ったレーザーやシステムが日本にとどまっているとは限りません。実際には,日本から中国や台湾,韓国などにシステムとして納められるケースが多くあります。でも,直接販売するのは日本の顧客です。日本のメーカーがシステムインテグレーターとして海外の顧客にシステムを納める図式が多いのです。今後は,こうしたケースがどんどん増えていくと考えています。このため,グローバルなネットワークを使ったサポート態勢ができないとこれからはやっていけません。そういう意味で,わが社にはアドバンテージがあるかな,と思っています。

聞き手:お話に出てきた中国市場については,どう考えられていますか?

遠矢:市場としてはとてつもなく大きいと思います。それと同時に今後も伸びていきます。
 日本は,市場として今後形骸(けいがい)化していきます。ドーナツ化していくというか。今われわれが認識しているアプリケーションからいうと,マーケットとしては日本は今後そんなに大きく伸びないでしょう。一方の中国は,現在から比べて恐らく5倍以上のマーケットポテンシャルがあると思います。
 ただ,中国がわれわれがよくいう「アベイラブルマーケット」かどうかというと,それはちょっと違うと思っています。中国はいつまでも輸入に頼っていません。1日でも早く自国で作りたい。そういう起業家たちが億単位で存在しています。欧米では,企業ごとに市場でうまくすみ分ける文化がありますが,アジアにはそうした文化がありません。「あそこが良い思いをしているのだったら,うちはもっと良い思いをしよう」とします。
 ですから,単純にマーケットとして中国をとらえて製品を出荷し続けていると,いずれ,顧客そのものがいなくなってしまう可能性があります。そうではなく,「メイドインチャイナ」の製品として使われることが唯一の生き残りの道だと考えています。将来,マーケットがもっと大きくなり,ハイテクへのシフトが進んでいくに従い,われわれは中国に工場を作ることになると思います。
 そうなると,われわれの日本の顧客であるシステムインテグレーターは仕事がなくなっていきます。中国のシステム会社や技術者も成長していきます。そうしたとき,日本は市場ですみ分けていくのか,それとも違うビジネスへ展開を考えるのか,今は判断として大変難しい時期だと思います。

聞き手:日本も昔は欧米の技術や製品を見事にコピーして市場を広げていった時期がありますね。今度はそれが中国で起こっているわけです。立場が逆転したというか。

遠矢:そうですね。中国とのつきあい方にはいろいろなパターンが考えられます。エンドユーザーマーケットとして見るか,製造のパートナーとして見るか,中国メーカーに技術移転するか,子会社を出すか。現在はまだ,中国メーカーはレーザー本体のようなエンジニアリングリッチな製品を作るのは難しいと思います。ただし,コンポーネントを大量に安く生産する能力はすでにあります。ですから,もうエンジニアリングにコストを掛けなくて良い,型さえあれば簡単に作れるようなコンポーネントはどんどん移管すべきだと思います。エンジニアリングを本当に必要とする製品をどうするかは,これからの課題でしょう。

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