【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

随所作主HOYA(株) 流川 治

マスクブランクス

聞き手:HOYAに入られてどのようなことを最初にやられたのですか?

流川:会社に入って最初配属されたのは技術研究所の相変化型ガラスメモリーを開発するグループでした。そこでは,材料となるカルコゲナイドガラスを素子化するために,スパッター技術開発をやりました。当時スパッターは最新技術で,その導入のための研究を任されたのです。
 そのようなときに,保谷電子という会社を山梨に作ることになり,急遽そちらに行くことになりました。そこでは,半導体用のマスクブランクスの製造を行おうとしていました。そのマスクブランクスの遮光膜をスパッターで作ろうということで私に声がかかったのです。
 現在の半導体露光装置はスキャナーが主流ですが,当時はコンタクトからプロジェクションアライナーへと変わりつつありました。最初の頃のブランクスの材料というのは,窓ガラスと同じ組成のものを使っていたためフォトマスクにした場合,使用中に温度が上がりその熱膨張でウェハー上の回路パターンがずれてくるのです。それで,熱膨張が小さいガラスを作らなければいけないということで,たまたまうちの会社にはボイラーゲージ用の耐熱ガラスがあって,それを使いましょうということになったのです。それまで耐熱ガラスは,アメリカのコーニング社からは「パイレックス」,ドイツのショット社からは「テンパックス」という商品名で出ていましたが,これらのガラスはブランクスに使えるような均質なものではありませんでした。HOYAは光学ガラスの溶解メーカであり,泡や脈理の無い均質なガラスを作ることができたため石英ガラス基板が登場するまでは,このLE-30(a:37 × 10-7 / ℃)はフォトマスク用のガラスとして世界で80%ぐらいのシェアとなりました。

聞き手:80%というのはすごいですね。

図1 スパッター1号機

流川:そこでの私の担当は,先ほどお話ししたようにスパッターによる成膜で,当時HOYAにはクリーン化技術を含めてこの種の技術は全くなく,海外から技術導入をするしか方法がありませんでした。それで導入した装置が,IBMをスピンアウトした技術者が作ったTAU Laboratoriesという会社のものでした(図1)。この装置には散々泣かされました。というのも,商社なしの直接導入であり,装置自体も高周波バイアススパッター方式で未経験のものでした。原理的には非常に良く考えられたもので,自動圧力制御システムといった当時最先端の機能も付いていたのですが,安定性が低くて全く使えませんでした。さらに,この装置のターゲット(基板へ付着させる物質の元となる金属板)は,焼結クロム板の張り合わせでしたが,このターゲットの品質が非常に低くてどうしようもなく,最終的には自分でターゲットを調達することにしました。このときは長野県の町工場の方達に非常にお世話になりました。そのようなことがあり,輸入品の装置は金輪際使わないと心に決めました(笑)。
 スパッター装置に関しては,その後低反射マクスブランクス製造の必要性から全長8mあまりの反射防止膜も連続して作ることのできるインラインスパッター装置を開発しました。この装置によるAR3膜は,開発には苦労しましたが,エッチングタイム,アンダーカット(エッチング時のマスクの下への腐食),表面反射率などの数値のバラツキが従来のものの半分以下になり,後にこの膜が基本形となりW/Wの市場シェアが70%を越す世界標準にもなりました。

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