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ベンチャーで成功するには,どこに用途があり,誰が買うのか分かっている必要があります。東京大学 物性研究所 渡部 俊太郎

フェムト秒レーザー

 エキシマレーザーは短波長が特徴なのですが,1990年ぐらいになるとチタンサファイアレーザーが開発されました。チタンサファイアレーザーは,近赤外光を発振し,スペクトル幅が広いので超短パルス化に最適なレーザーとなりました。
 エキシマレーザーだと,パルス幅は100fsが限界なのですが,チタンサファイアレーザーでは10fs以下にすることができます。それまでわれわれは,色素レーザーで発振し,エキシマレーザーで増幅するという組み合わせでフェムト秒テラワットレーザーを開発していました。それが現在では,発振にチタンサファイアレーザーを使うのが主流になっています。
 増幅にはチタンサファイアレーザーを使う方法とエキシマレーザーを使う2つの方法がありますが,科学研究においてはチタンサファイアレーザーを使うシステムが主に使われています。増幅器にエキシマレーザーを使ったシステムは,短波長で高い平均出力が得られるのが特徴です。
 現在,フェムト秒レーザーの研究がさかんですが,これにはチタンサファイアレーザーの貢献が大きいといえます。というのも,それまでフェムト秒レーザーに使われていた色素レーザーは,専門家でないとうまく発振できませんでした。ところがチタンサファイアレーザーは,初めて操作する人でも簡単に超短パルスを出すことができるのです。
 フェムト秒レーザーは,加工において注目されていますが,まだ研究段階のものが多いといえます。この状況はエキシマレーザーが開発されたばかりの頃とよく似ています。フェムト秒レーザーは高い可能性があるため,今はあれにも使えるこれにも使えるとやっていますが,そのうち値段に見合った本当の使い方が見つかると思います。
 フェムト秒レーザー加工というのは,穴を開けるにしても熱で融かすのではなくアブレーションで吹き飛ばすことで行います。このため加工の際にもバリがでず,非常にきれいに仕上がります。また,ガラス内部にレーザー光の焦点を結んでやれば,ガラス内部に線を引くことも可能です。
 じつは,フェムト秒レーザーを使った加工はミシガン大学のジェラード・モロー先生が基本特許を取っており,これが大問題になっているのです。モロー先生は高出力超短パルスレーザーの大家で,チャープパルス増幅の発明者をしたことでも有名です。
 チャープパルス増幅というのは,高出力の超短パルスを発生させる方法の1つで,パルスをいったん伸ばしておいて増幅し,それを縮めます。なぜこのような方法を取るかというと,固体レーザーは超短パルスのまま増幅すると,セルフフォーカシングという現象が起こり,結晶がブレークダウンしてしまうのです。この問題を解決するためチャープパルス増幅を行うのですが,チャープパルス増幅は非常に高いピークパワーが出せるため,世界中の高出力超短パルスレーザーにこの方法が採用されています。

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