【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

大きなブレイクスルーをしようとすればするほど,原点に戻って考えることが大切です。慶應義塾大学理工学部 慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート所長・教授 小池 康博

成果の出ない時代

小池:しかしそれからが大変でした。大学に残ってGI 型POF の研究を続けることにはなったものの,まったくあてのない研究でしたから,その後数年間は一人で研究をせざるを得ませんでした(本号特集記事「総論」p. 1412 ~ 1414 参照)。そこであらためて基本・原点に戻ることにしたのです。というのも,その当時,ポリマーの過剰な光散乱の原因についてさまざまな論文が発表されていましたが,実際に検証してみると,そのいずれもが決定的な原因ではないのです。その半面で分かったことは,過剰散乱を解き明かすための基礎研究がまったくなされていないということでした。それで,心機一転と言いますか「光とは何か」「光の散乱とは何か」といった光の根本に立ち返って考えるようにしたのです。古典的なアインシュタインの「光散乱に関する揺動説理論」やデバイの「散乱理論」は,私のバイブルになりました。結果的に,私の研究には,その当時の最先端の論文はあまり役に立たなかったのです。
 それで,実際にアインシュタインの揺動説理論の式に値を入れて計算すると,PMMA(ポリメタクリル酸メチル) などの光損失は10dB/km 程度なのです。しかし,実際に作ってみると光損失は1,000dB/km ですから,「残り990dB/km の損失はいったい何なのか?」ということになります。この理想と現実の差の壁となっている原因を突きとめるのに,結果的に8年かかりました。この時期は私にとって,悩み,そして試行錯誤の毎日でした。そのようなときに,研究がベル研究所の研究者の目にとまり,それで1 年間ベル研に行くことになりました。ベル研ではひたすら光の吸収・放出,分極,散乱,屈折・反射といった基礎研究を行いました。余談ですが,当時のベル研には,C 言語の開発者の一人であるブライアン・カーニハン博士やfMRI( functional Magnetic Resonance Imaging)開発者の小川誠二博士がおられ,彼らに励まされながらの研究は,非常に良い思い出になりました。

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