【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

特別編(下)「良いものをつくるには,分からないことをひとつひとつ解き明かす必要がある」光産業創成大学院大学/浜松ホトニクス(株) 晝馬 輝夫

返品の山

 浜松テレビに入った頃,最初の1ヵ月の売上が2 万5 千円。ひと月に2 万5 千円の売上でナンボもうかるのか? というので帳面をつけてみたら,それでも3 千円もうかってる。えーっ,と思って。そして次の月は売上が5 万円くらいになったんですね。そうすると2 万円くらいもうかるということで,これはすごいなぁと思っていたら,3 ヵ月目に入ったら最初の月に出荷したヤツのほとんどが不良返品で返ってきた(笑)。何が不良かというと,納める前はちゃんと感度があったけど,納品してしばらくたつとほとんど感度が無くなっている。
 よくよく調べてみると,光電管の材料のガラス管が汚れていることが分かった。それでガラス管をきれいに洗うというのはどういうことだということになって,浜松高等工業の卒業生を3 人ほど採ったわけです。その面々に研究させるわけですが,別に研究施設があるわけじゃなし,まずは現場に入って仕事を覚えろってことで,ガラス管を洗うパートのおばちゃんの横に立たせて「同じようにガラス管を洗え」と言って洗わせたわけです。それから3 ヵ月くらいたったある日の夕方,帰りにそのうちの1 人が門の前で待っていた。それで「ちょっと話をさせてもらいたい」って言うんで,安酒を飲ませる店に連れて行って「何だ?」と聞いたら「私は曲がりなりにも工業専門学校を卒業している。それがパートのおばさんと一緒になって毎日ガラス管を洗わされてるんじゃ,何か先行き見込みがないような気がしてしょうがない」と言うのです。「そうか,お前は学問があるんだな。ところでお前,ガラス管は何のために洗っているのか分かってるか?」と聞いたら,「きれいにするためだ」と言う。「きれいなガラス管というのはどういうもんだ?」と聞くと「何も無けりゃいい」と言う。「お前,何も無けりゃいいなら,ガラス管が無くなるまでこするのか?」とそこまで言ったら,そいつも馬鹿じゃないもんで,「ああそうか,パートのおばちゃんと一緒にガラス管を洗わされているのは,どうすればガラス管がきれいに洗えるのか,そしてきれいになったかどうかをどうやって調べればいいのか考えろということか」と気がついた。そこで「高い機械を買ってきて調べたってそんなのは駄目だ。それをちゃんと見つけるのがお前の仕事だ」と言ったら,「そうですか,それに気づかんで失礼した」とそいつは全部理解した。

発見と転機

 それから彼は目の色を変えて夢中でいろいろやって,2 ~ 3 ヵ月ぐらいたった頃,最後に純水でガラス管を洗う方法を見つけた。そして,ガラス管がきれいになったかどうかを調べるにはタルクという,うんと細かい粉が使えることも見つけた。タルクの粉を水の上に撒いて,そこへガラス管を入れ,タルクがずっとのぼってくるようならばきれいに洗えている。逆にガラス管を突っ込んでタルクがみんな逃げていっちゃうというのはまだ汚いということなんですね。いまだに私は,その理屈が何であるのかよく分からんけど(笑)。ともかく洗うというのはそういうことだ,と。そうなるまでちゃんと洗えよ,ということで,当時はパートのおばちゃんと一緒に学校を出たばかりの若い技術者も洗っていた。
 そのようにガラス管を洗うようになったら返品がほとんど無くなった。だけど,しばらくするとまた返品の数が増えた。それで理由を聞いたら感度がありすぎて不良だと(笑)。ガラス管をきれいにしたら感度が3 倍くらい高くなっちゃって,街灯の自動点滅器に今までと同じような回路で入れていると,まだ夜明けの薄暗いときに街灯がバカッと消えちゃって,逆に夕方はいつまでたっても明かりがつかない。品質を良くしたのに不良品だとぬかすから納入先の工場長の所に電話して「何を言ってるんだ,お前,技術屋じゃないか,そんなもの負荷抵抗を変えりゃいい」って言ったら,「今後もずっとこのくらいの感度の物をくれるというなら負荷抵抗を変えるが,たまたま今度納めたヤツがよかっただけというんじゃ困る」と言うもんで,「大丈夫だ,ちゃんとコツを見つけた!」と言って怒鳴った(笑)。

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