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黒鉛を超伝導にするカリウム原子の並ぶ様子を可視化奈良先端科学技術大学院大学・物質創成科学研究科 松井 文彦

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 黒鉛層間化合物は,人体の中にもあるありふれた軽元素で構成される環境に優しい超伝導化合物である。例えば,黒鉛にカリウム原子を挿入すると約0.14Kで,またカルシウム原子を挿入すると約11.5Kで超伝導状態になる。黒鉛にカリウムとカルシウムを少しずつ混ぜていくと図1のように金色に変化し,興味深い超伝導転移温度変化がみられる。ただし,こうした化合物は空気中で容易に酸化されるため取り扱いが難しく,特に表面の構造は謎に包まれていた。
 光電子ホログラフィー法は結晶中の元素を特定し,その周囲の原子配列を可視化する強力な手法である。光の波としての性質である干渉などの現象に基づくホログラムは,モノの立体的な形の情報を平面に記録する技術として,紙幣や証明証など身の回りの様々な場面で活用されている。それと同じように電子の波の性質に基づいて原子配列を直接可視化する方法が光電子ホログラフィー法である。X線を原子に照射すると原子核の周りを運動する電子が外に飛び出し光電子となる。光電子の波は小石を水に落としたときのように四方八方に拡がっていき,その一部が周囲の原子によって散乱され,複雑な光電子ホログラムとよばれる干渉模様が生じる。このホログラムを詳しく解析すると特定の元素の周りの立体的な原子配列像を得ることができる。
 図2に示した2枚の光電子ホログラムから最表面数原子層の領域にあるカリウム原子周りの局所構造の可視化に成功し,カリウムとカルシウムが不均一に分布することを見いだした。高い超伝導転移温度を担うカルシウム原子が固体内部に存在し,その表面ではカリウム原子が黒鉛の蜂の巣格子の間に整然と並んでいることが明らかになった。図3は実験から得られた原子配列像である。カルシウムはカリウムよりも強く黒鉛格子と結びつき,そのため化合物結晶を割ったとき,カリウムだけが挿入されている結合の弱い層が選択的に新しい表面として露出する,と考えられる。
 近年,表面や原子数層の膜が超伝導になる例が報告されている。新規に開発される機能性材料は結晶が小さいことが多く,物性発現の鍵となる不純物原子の量も少ないが,元素選択的な光電子ホログラフィー法による原子配列を直接観察する技術は,新たな超伝導材料開発において強力な指針となると期待される。

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