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夜の月と昼の月東京工業大学 松谷 晃宏

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  鶴田匡夫氏の「続 光の鉛筆」の“月の光と混色”の中に以下のような解説がある1)。この現象は写真を撮影して比較してみるとよくわかる。

 夜は金色に輝く月も,昼間は色を失って白く見えます。今回は,色を混ぜ合わせて別の色を作る,いわゆる混色を解説する導入部にこの現象を取り上げてみたいと思います。(中略) 昼間見る月には,月から来る光に,太陽光が大気によって散乱された結果生じる短波長成分の多い青空の光が重なっています(図4.1(b))。図から明らかなように,この現象の本質は月を青いフィルターを通して見ているのではなく,月の光に空の光を加えている点にあります。両者の輝度はほぼ等しく,また黄と青とは補色の関係にありますから,両方を加えた結果,月が白く見えるのです。半月の影に近い部分は暗いので,そこがいくぶん青っぽく見えることも容易に確かめられます。2つの異なる色光を加えて別の色をつくることを加法混色といいます。

 写真は冬のある1日に撮影した月と太陽である。夜の月と昼の月の色の比較には,大気による散乱や減光の影響を同程度にするために,南中前後の同じ高度で撮影するのがよい。図1の夜の月の撮影時刻は薄明開始ごろである。薄明(天文薄明)開始とは6等星が見えなくなるころ,すなわち夜の最後ということになる。昼の月の撮影時刻は日の出後約1時間半たったころで,南中を過ぎて薄明開始ごろと同じくらいの高度に見られる。図1の写真の比較により,上述の夜の月と昼の月の色の違いを感じていただけるであろう。図2はNDフィルターで減光して撮影した太陽で,黄色っぽい色をしている。光球の温度を考えればおおむね妥当な色ではある。しかし,カラー写真で色について言及するのは少しやっかいである。銀塩時代も色の再現性はフィルムそれぞれに特徴があった。デジタルカメラでは一般的にはカメラ内の画像処理エンジンを経由したデータを記録しているし,撮像素子のカラーフィルターの特性も加わる。ホワイトバランスもいろいろ選択できる。今回の写真のホワイトバランスは「晴天」を選択して撮影した。しかし,「晴天」の設定でもカメラが異なると色が異なることがある。肉眼での観察でも右目と左目で知覚される色調がわずかに異なることもある。視覚の色も聴覚の音色も色の問題はいろいろと難しい。

参考文献
1)鶴田匡夫,続 光の鉛筆,新技術コミュニケーションズ,pp. 38-48(2006).

撮影データ
月(月齢23):2015年12月5日,6cm F20 屈折望遠鏡直焦点,レンズ交換式アドバンストカメラ,露出125分の1秒(ISO1600)
ホワイトバランス:晴天,JPEG(FINE)で撮影。
太陽:2015年12月5日,6.5cm F7.7 屈折望遠鏡直焦点,レンズ交換式アドバンストカメラ,ND400+ND8×2,露出16000分の1 秒(ISO400)
ホワイトバランス:晴天,JPEG(FINE)で撮影。

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