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日米の太陽観測衛星が捉えた太陽コロナ加熱メカニズムの観測的証拠名古屋大学 岡本丈典

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 太陽はその周囲にコロナと呼ばれる高温の大気をまとっている。その温度は100万度。太陽表面は6000度であるから,桁違いに高い。何がコロナを加熱しているのか。これはコロナ加熱問題と呼ばれ,天体物理学の大きな謎の1つである。
 この問題解決に大きな進展をもたらしたのが,日本が打ち上げた太陽観測衛星「ひので」である。地球周回軌道から視力300に相当する解像度で数秒に1枚撮像を行い,太陽の細かい構造やその運動を捉える,いわば太陽用「顕微鏡」である。図1(左)の写真はひのでが捉えたプロミネンスで,微細な筋状構造の集合体であることがわかる。ひのでによるこれまでの観測から,微細構造が振動している様子が捉えられている。これはコロナを伝播する波動によるもので,そのような波動がコロナには満ちあふれていることが明らかになった。波動の持つエネルギーを使えばコロナを加熱できるのではないかという説が半世紀以上前からあり,ひのでの観測によってついにその波動が見つかった。
 波の存在は明らかになったが,ではどのような物理過程で加熱が起こっているのか。これを明らかにするために,ひので及びアメリカの太陽観測衛星「IRIS」によるプロミネンスの共同観測を実施した。ひのでからは撮像観測による2次元画像を,IRISでは分光観測による視線方向の動き(ドップラー速度)を捉えることで,プロミネンスの3次元運動に迫る。図1の緑のスリットを横切る構造の時間変化を調べたものが図2(左)である。縦軸はスリットに沿った上下方向,横軸は時間で,緑点で示したように上下に振動していることがわかる。これに,IRIS観測から求めた視線方向速度を紫色の点で重ねてある。この上下振動と奥行き速度の関係が奇妙なのである。普通の振動はこれらのピーク時刻が90度ずれているはずだが,観測結果ではそろっている(0度または180度。今回の図では180度)。この振動パターンに着目し,数値シミュレーションを使って解釈を試みた。その結果,プロミネンスの振動に伴い,「共鳴吸収」と呼ばれる物理過程で微細構造表面に特徴的な流れが生じ,振動のピーク時刻がそろうことがわかった(図2右)。また,観測,シミュレーション双方でプロミネンスの加熱が捉えられており,波動による加熱であると結論付けるに至った。
 加熱を引き起こす具体的なメカニズムを観測的に明らかにした意義は大きく,コロナ加熱問題解明へ弾みがつくと期待される。

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