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アルマ望遠鏡,「視力2000」で惑星の誕生現場を超高解像度撮影自然科学研究機構国立天文台 平松 正顕

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 近年,太陽以外の恒星のまわりに次々と惑星が発見され,その数は2014年末現在で1800個を超えている。ホットジュピター(主星のすぐ近くを回る巨大ガス惑星)やエキセントリックプラネット(大きくつぶれた楕円軌道を持つ惑星)など,太陽系を見ていただけではわからなかった惑星系の多様性も指摘されている。こうした多様性の起源を探るには,惑星の誕生メカニズムを理解することが重要だ。恒星とその周りの惑星系は宇宙に漂う塵やガス(星間物質)の奥深くで生まれるが,星間物質による散乱や吸収が激しい可視光ではその現場を調べることができない。惑星の材料となる星間物質そのものから放射され,散乱吸収をされにくい電波であれば,その現場を詳細に調べることができる。
 図1は,若い星おうし座HL星を取り巻く塵の分布をアルマ望遠鏡(図2)で撮影した画像である。2013年に本格観測を開始したアルマ望遠鏡(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は,日本をはじめとする東アジアと北米・欧州が協力し南米チリの標高5000mの砂漠で運用する国際天文台であり,直径12mと7mのパラボラアンテナ66台を結合しひとつの巨大な望遠鏡として機能させる「干渉計」方式の電波望遠鏡だ。アンテナの展開範囲は東京の山手線の大きさに匹敵し,最高解像度は0.01秒角(視力6000に相当)に達する。星や惑星の材料となる低温のガスや塵が放つ電波(周波数30~950GHz)を高感度・高解像度で捉えることができる。
 図1はアルマ望遠鏡の高解像度観測試験で得られた画像だが,視力2000に相当する解像度を実現しており,この画像を見た天文学者たちはそろって驚き,興奮した。スペック上実現可能な最高解像度にはまだ及ばないが,アルマ望遠鏡の比類なき実力を目の当たりにしたのはこれが初めてだったからだ。画像には,中心の星のまわりに幾重にも同心円状に塵が分布しているようすが,初めてはっきり写し出された。隙間の部分では巨大な惑星が今まさに成長中であり,周囲の塵を掃き集めていると考えられている。100万歳という若い段階で木星のような巨大惑星が既に複数作られている可能性が示されたのはこれが初めてのことであり,惑星形成の理論にも再考を迫る画期的な成果と言える。アルマ望遠鏡の観測対象は100億光年以上かなたで盛んに星を作る銀河からごく近傍の太陽系内天体まで多岐にわたり,そのすべてで革新的な成果が期待されている。天文学は今,大きな一歩を確かに踏み出したのだ。

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